すずの短文集
置物の小鳥
 一軒のとても素敵なお家のとても広いバルコニーに、小鳥の置物がありました。

 周りは山も森もなく、自然に囲まれた川もありません。
 あるのは大きく立派な家々や高いビルばかり。

 本物ほどの小さなその置物の小鳥は、たった一羽だけ。
 まるで飛び立ち忘れたかのように置かれていました。

 その小鳥の置物は、小首をかしげる格好のまま空を見ていました。
 毎日毎日。
 大雨の日も強い風の日も、あまり降らないたまの雪の日も……


 そのうち本物の鳥が一羽、そのお家の置物の小鳥のそばに来るようになりました。

 すると一羽、また一羽と、本物の鳥たちが代わるがわるやってくるようになりました。

 そして置物の小鳥のそばでみな歌うのです。

 しかし置物の小鳥は動かず黙って、首をかしげたまま。


 よく晴れたある日。
 置物の小鳥の周りを、また一羽の本物の小鳥がやってきて飛び回りました。

 二度、三度。

 とても楽しげに、キレイな声で歌いながら。

 すると突然、置物の小鳥はつぶらな目をパチパチと瞬き、真っ直ぐに空を見上げてバサリと羽を広げました。

 そしてやってきたその小鳥に続くように、青空に向かって飛び立ちました。

 そのお家のバルコニーに、もう小鳥の置物はありません。


 その置物だった小鳥は、一体どこへ行ったのでしょう…
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