想いのままに心のままに ~結婚より仕事の30女が身ごもりました~
看護師に言うふりをして、磯貝医師は宏貴に言っていることに、宏貴は気づいていた。

そばにいて支える人が今、恵理には必要だ。
その誰かが自分だとわかっている。いや、ほかの誰でもなく自分でありたいと宏貴は思っている。

でも、何も知識のない宏貴は、無責任に”大丈夫”と恵理に言うことしかできずもどかしくてどうにかなりそうだった。

失ったのは二人の命だ。
恵理が全身で感じている痛みも苦しみも、まるで自分のもののように感じるのは宏貴も同じだった。

どうしたらいい・・・?どうしたら恵理を支えられる・・・?

恵理は肩に注射をされてすぐに眠ってしまった。

「1時間から2時間で目を覚ますと思います。目が覚めたらナースコールしてください。そのあとに診察をしましょう。体のことは聞きました。美園さんの精神状態は今かなり不安定な状態です。そばにいる人の支えが必要です。彼女には頼れる近親者がいないと前回の受診で聞いています。」
磯貝医師は眠ってしまった恵理の隣で立ち尽くす宏貴に声をかけた。
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