想いのままに心のままに ~結婚より仕事の30女が身ごもりました~
「靴はいて」
恵理が脱いでいた靴を、宏貴は恵理に履かせると、手をひいて立ち上がらせた。

「あと少し!」
「・・・うん」
疲れ切っている恵理はもう話もできないほどに疲れている。
それでも、最後の力を振り絞り恵理はヒールに履き替えると、宏貴が用意してくれた荷物を持って、自分の足で歩きパーテーションから出る。宏貴は恵理の足元に注意しながらも、自分の荷物を持ち後ろから歩いていく。

「やっと帰れるのか?」
「はい。ひと段落つきました。今日は帰ります。明日の午後出勤します。」
「了解。お疲れ。何かあれば連絡する」
「はい。お疲れさまでした。」
上司に報告をして、宏貴と恵理はフロアから出る。
この仕事は週に40時間が基本的に出勤時間と決まっていて、自己管理になっている。残業代や手当はほとんどつかず、仕事の内容によって給料が変わってくるため、いかに効率よく仕事をこなすかをみな競いあっているようなものだった。

宏貴と恵理の仕事の仕方は、会社の中でも稀な方法で、余計に噂になっていた。
社内で、二人が付き合っている噂はあるものの、宏貴と恵理は仕事がしやすいようにと、付き合っていることは黙っている。

宏貴が恵理との結婚を付き合い始めてからずっと言っているのは、正式に周りに二人の関係をわかってもらいたい、こそこそしたくないという気持ちも強かった。
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