想いのままに心のままに ～結婚より仕事の30女が身ごもりました～

「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
「宏貴も、行ってらっしゃい。よろしくね？打ち合わせ。」
「おう。任せなさい。これ、サンキュ。」
運転席から助手席の窓を開けて宏貴は、恵理が作ってくれた資料をひらひらとさせる。
「どういたしまして。じゃあ。」
「あぁ。終わったら連絡して。これたら迎えにくる。」
「ありがとう。無理だったらタクシーで帰るね。」
「了解。」
二人は手を振りあってからそれぞれの方へ進みだした。

お互いの生活のペースができてきた。
そこに、お互いがちゃんと存在していることに幸せを感じる毎日。

失った命を忘れたわけじゃない。
むしろ日に日に、思い出は濃くなっていくように感じる。

ほんの数週間しかお腹にいなかった命でも、その存在の大きさと失った喪失感に恵理はまだ、後悔や罪悪感を感じずにはいられなかった。