想いのままに心のままに ~結婚より仕事の30女が身ごもりました~
「母さんはわかってた。私の弱さを。だから・・・」
恵理が少し、宏貴の背中越しに父の方を見る。
知らない事実に驚きながらも、知りたいと思う自分がいた。

「母さんも知ってた。私が・・・。」
口ごもる父に恵理は自然と涙があふれ出して、宏貴の背中から離れた。
「母さんは知ってたんだ。自分がもうすぐ死んでしまうことも。私のことも。だからこそ、自分にばかり縛りつけたくないと、私の背中を押した。」
「・・・」
「これを・・・」
父が恵理に遠慮がちに手を伸ばす。

恵理は父の動きにびくりと体をこわばらせて再び宏貴の背中にしがみついた。

恵理の様子をみて宏貴が手を伸ばし、代わりに恵理の父が渡そうとしているものを受け取る。
「恵理」
宏貴の手から恵理は恐る恐る受け取る。
< 229 / 263 >

この作品をシェア

pagetop