想いのままに心のままに ～結婚より仕事の30女が身ごもりました～

なぜ、仕事でもペアを組んでいる自分が後部座席で、今日あったばかりの取引先の相手が助手席なのだろうかと少し疑問に思いながら、恵理は車に乗り込んだ。

「画材専門店に向かう途中で、店長さんに会って」
「先ほどは打ち合わせにお越しいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」
宏貴に言い訳みたいなこと言わなくていいのにと思いながら、助手席の店長には仕事用の笑顔を見せて
「こちらこそ、納得いただけるものができるよう、最善を尽くさせていただきます。よろしくお願いします。」と営業用の挨拶をする恵理。

「ずいぶん買いましたね。ウェブデザインて、てっきりはじめから機械作業なのかと思ってました。」
「そういう方も多いですが、私は実際に自分の手でデザイン画を描いて、それからデータにしていく方法なんです。」
店長がルームミラーごしに恵理に質問してくる。
ルームミラーには運転している宏貴の姿と店長の姿が並んでうつっていて、恵理はちくちくと胸が痛んだ。

「手書きにする時間がかかるぶん、作業時間はかかりそうですね。」
「ご安心ください。納期までには間に合いますから。」
「そこは信頼していますが、効率よりも内容にこだわってらっしゃるあたりが、本当にお二人に担当していただけてうれしいと感じるポイントです。」