想いのままに心のままに ～結婚より仕事の30女が身ごもりました～

「平気。もう少し休んだら戻るから。」
『無理すんなよ？上に来てソファで仮眠しろ。』
「うん。ありがとう。」
恵理は何とか平静を装って宏貴との電話を終わらせると、深呼吸を何度か繰り返した後、8階のフロアへあがった。

「恵理」
フロアの中にある、自分たちの作業スペースに戻った恵理。
パーテーションの影から恵理の姿が見えた瞬間、宏貴は作業をしていた手をとめて立ち上がる。
恵理のすぐ前に立ち、少しかがんで恵理の顔色を確認する宏貴。
「顔色悪すぎだろ。座れ。」
「平気。回復した。」
「全然回復したって顔じゃないだろ。」
宏貴は半ば強引に恵理の肩を支えて、仮眠用のソファに恵理を座らせると、自分の大きな手で恵理の手を包み込んだ。
「風邪でも引いたか？珍しいな。こんな体調崩すの。」
心配そうな顔のまま、まだ冷たかった恵理の手に、自分の体温を分ける宏貴。