タングルド
ミーティングルームには常務と俺の二人だけになった、常務が何を言いたいのかは聞かなくてもわかる。
しかし、立場的に聞かなければいけないだろう。

「豊田さんはとても気が利いていて仕事の補佐としても充分満足のいく仕事をしてくれる」

「そうですね」

「彼女が新卒で採用された時からわたしの秘書として頑張ってくれている」

「はい」

「彼女を信頼しているし、仕事上のパートナーとして大切な人材だ」

「はい」

「娘のようにも感じている。だから、わたしは彼女の幸せを願っている」

「そうですね」

「哀しい思いをして欲しくない。わかるね?」

「はい」

「大島賢一くん、君は豊田さんと恋人という形の交際をしているんだよね」

「そうです」

専務はじわじわと俺を追い詰めるつもりなのかもしれない。

「君と交際して豊田さんは本当に幸せになれるんだろうか?たしか君には」

「わかってます、ただ今は俺を信じて欲しいとしか言えないです」

「そうか・・・・・」
専務の言葉を遮るように答えてしまったが、それに関して専務が不快になっていると言うわけではないようだが、それでも雪を心配していることは伝わってくる。

そう、俺が不安にさせている。


デスクに戻ると雪が待っていてくれた。
本当なら今夜は一緒に居てあげたかったのに、このあと予定が入ってしまった。
不安そうに俺をみる雪に噂はすぐに消えるから心配ないと告げるが、その言葉が雪の気持ちを軽く出来たとは言えない。

「すぐには消えないんじゃいかな?現に」

「女性関係で飛ばされたって話?事実かもしれないよ?」

「事実なの?」

「そんな訳ないでしょ」

「うん」

「本当はこの後、一緒に居たかったんだけどね先約があって、ごめんな」

「ありがとう、平気よ。でも、安心したから私はもう帰るね」

軽口ですこし元気が出たようだが、それでも無理をしているのはわかる。

「寝る前にLINEする」と伝えて会社を出た。
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