タングルド
<兄弟>
<兄弟>

Crowに到着するとカウンターには賢一の弟である新二さんが座っていた。

「こんばんは、新二さんはよくここへ来るんですか?」

「実はそうでもないんですよ、兄がよく来る場所だから遠慮しているというかブッキングしたいくないというか」

「そうなの?」
兄弟仲がよくないんだろうか?
という表情を思いっきり出していたようで和也さんから「兄弟仲が悪いわけじゃないよ」とフォローが入った。

「ちょっとワケありなので」
とおどける笑顔は賢一に雰囲気がよく似ていた。

「そう」
賢一とブッキングしたくないというくらいだから、賢一との関係を曖昧に伝えている私はあまり関わらないようにした方がいい気がする。
バッグからスマホを取り出してメッセージの確認を始める。

「え?それだけ?」
新二さんが珍しいものでも見るかのような視線を送ってきた。

「へ?」
意味がわからない。

「普通、ワケありなのでって言ったらそのワケが気にならない?」

そうなの?今の仕事をしていて必要なことは調べるが、詮索する必要のないものは排除するという考え方で生きてきた。
はっきり言って、新二さんのワケについては聞く必要が無いし、賢一が絡むのなら賢一が知らない所で聞くのはフェアでは無い気がする。

聞き流そうとしたとところに和也さんが目の前に取っ手のついたグラスが置かれほんのり湯気が立ち上っていた。

和也さんナイス!と心で親指を立てた。

「いただきます」
鼻先にフォアローゼスの芳醇な香りが漂う。
一口口に含むと樽の香りに仄かな甘味が寒さで縮まった喉を和らげながら通っていった。

「美味しい、ホットで飲むのもいいわね。甘味がある気がするけど」

「蜂蜜を少々入れてあるんです、気に入ってもらええて良かったです。外は寒かったでしょ」

和也さんの言葉と笑顔にすっかり癒やされていると新二さんがぐっと体を近づけてきた。

いきなりこの距離感は無理!と思ったところで自分以外の力によって新二さんから引き離された。

「新二、距離が近い」

新二さんの動きに気を取られて賢一に気がつかなかった、というかいつの間にか背後からホールドされる形で新二さんから離された。

バックハグ・・・

恥ずかしいけど嬉しい。
というか、弟の前でこんな所を見られて良かったんだろうか?

「雪ごめん、待った?てか、何で新二と?」

と言いながら私のグラスをさりげなく隣の席にスライドさせると気がつくと椅子まで移動をしていて新二さんと私の間に賢一が座っていた。
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