タングルド
「秘書課の豊田です」

「どうしました？」

「今、配車をお願いしたのですが間違いなく処理されているかを確認したいのですが」

「担当は？」

「佐藤さんです」

一瞬間が開く。
多分、私とのことは報告として上がっているのかもしれない。

「そうですか」

「万が一にも間違いや忘れなどがあってはいけないので、佐藤さんには申し訳ないのですが確認を取らせていただきました」

「佐藤は配属されて間もないですから、そういったご懸念は仕方がないと思います。しばらくは、この直通電話か今井というものに依頼をしてください」
「今回の件もわたしの方で確認をしておきますからご安心ください」

「ご配慮ありがとうございます、よろしくおねがいします」

受話器を置いて、息を吐く。

車輌部主任の柔和な顔を思い出す。
元は第一営業部のエース営業マンだったらしい、体の弱い奥さんの為に残業の無い部署へ異動したと聞いたことがある。
そんなふうに愛される女（ひと）が羨ましい。
そして今も、私の懸念を彼女がこの仕事に慣れていないという言い方で佐藤さんの尊厳を守っているように思う。
佐藤さんが主任を煩わせることがないようにしてほしいと思った。
< 142 / 226 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop