タングルド
関谷絢の場合

ISLANDにOB訪問に行ったら、先輩が思いのほか軽い人だった。
合コンを持ちかけられ、友人に話すとISLANDの社員ということでみんなに女神扱いされた。

確かに恋人にするのも結婚だってISLANDなら好条件だ。
わたしだって先輩はちょっと勘弁だけど、他にいい人がいたら彼氏に欲しい。


合コンで一人だけ気になる人が居た。
気が利いていて、話題も豊富で何と言ってもイケメンだ。

「先日OB訪問に来たのって君だよね?あいつチャラいだろ、でもデキる男だからさ就活に行き詰まったら相談するといいよ」

「北山さんに相談してもいいですか?」

「オレで役に立てることがあるならいいよ」

「じゃあ、LINEの交換いいですか?」

そうやってLINE IDを皆んなより一足先にゲットすることができた。
他にも北山さん狙の子が居ておちおちしていられない。
この後すぐに席替えをすることになり、北山さんと席が離れてしまい、今隣に座っているのがあからさまな北山さん狙の子だった。

『席が離れちゃったからこっそり話していい?』

目の端でこっそり北山さんを確認すると、表情も変えずにスマホを見ていた。
どうしよう、こういうの引かれちゃったかも。

ちょっと後悔し始めた頃

『了解、絢ちゃんとあまり話せなかったからうれしいよ』

うわっ、慣れてる?
どう見てもモテそうだし、危険人物かも。

『北山さんって彼女います?』

『いないよ、いたら合コンに出ないでしょ』

「北山さ〜ん、スマホばかり見てたら嫌だ」
声のする方を見ると、たぶんわたしとLINEをしていることを言ってるのかも、ちょっとドキドキしてきた。

「ごめんね、妹から相談事があって」

「そうなんだ、それなら仕方ないかっ。今度ミオの相談にものってください」

そんな風に会話をしながらもLINEでの秘密の会話は続いていた。

『よかった、それならわたしにもチャンスはありますよね』

『オレにもあるってことだね、この後二人で飲み直しする?』

『ぜひ!』

これでいい、今日はもう北山さんを誰にも取られない。

その後、こっそり二人で合流しておしゃれなショットバーに行った後、ホテルに向かった。


私もそれなりに経験はあったが、北山さんとの行為は今まで感じたことがないほど気持ちよく酔ってしまった。

「茂さんって呼んでいい?」

「いいよ、オレは絢ちゃんて呼ぶね」

「また会ってくれる?」

「絢ちゃんが会ってくれるなら」

「だったら、恋人になってって言ったらなってくれる?今、彼女は居ないんだよね?」

「いいよ付き合おう」


その後また抱き合って茂さんは寝てしまった。
今日来ていた子たちに牽制できるかもしれないから眠っている茂さんの写真を撮った。


幸せだと思っていたのに
2ヶ月もしないうちに茂さんから別れを告げられた。


大切な人がいるから別れてほしいって何ソレ

そんなの受け入れられない

だから

後回しにした


まずは就活をした。
ゲーム制作会社を中心に下準備をした、ひさびさに茂さんに連絡をしたが、LINEはブロックされていた。

意味がわからない。

Twitterを探しフォローの申請をしたがスルーされた。
先輩に連絡を取ると、茂さんには社内に恋人がいることを聞かされた。

私は別れたつもりは無い。
だから、これは浮気だ。

茂さんの部屋も知らない、だから帰宅時に尾行するとファミレスに入っていった。
駐車場から見ていると女性と待ち合わせしていたが、テーブルの上には大量の料理が並び、もしかすると他にも人が来るかもしれないからしばらくは様子見ることにした。

いくら待っても、他には人が来ず女性が出口に向かっていった。
近くで見るために急いで向かいわざとぶつかった。大人な感じの美人だ。

茂さんが座っている席に向かう。
久しぶりに会ったのに

「1年前に別れたよね。君もわかったと言っていただろう?」

何を言っているのかわからない

「しっかりと理解して、オレと君の関係は1年前に終わっているんだよ」
そう言うと茂さんは出て行った。


先輩に連絡をしたが茂さんの相手のことを詳しく教えてもらえなかったが、Twitterをくまなく見てSNOWがその女のアカウントだと分かった。
フォロー申請するとフォローバックしてきた。


何度か茂さんに会いに行ったけど取りあってくれない、だから女のほうに直接揺さぶりをかけるためあの日、友達を牽制するために撮った茂さんの写真をダイレクトメールで送り始めた。

送っても送ってもリアクションが無く、それが無性に腹が立った。

茂さんを尾行していると、あのファミレスに入っていった。
駐車場の植え込みに座って見ていると、あの女が茂さんの向かいに座った。

二人はスマホを覗き込んで楽しそうに見える。
どうして私だけ、悔しい悔しい悔しい。

急いでファミレスに入ると途中のテーブルに置いてあった水の入ったグラスを手に持ち、あの女の頭から水をかけた。


そこからはあまりよく覚えていない。


気がつくと公園のベンチに座っていた。
茂さんがペットボトルのお茶をキャップを開けて手渡してくれた。

一口飲むと少し落ち着いてファミレスであの女に水をかけたことを思い出す。

「彼女はオレの恋人ではないよ。今頃、彼女の恋人が迎えに来てるはずだ。オレは君に対して、いや今まで付き合ってきた人たちに対してもすごく不誠実だった。君がここまで追い詰められているのに、知らんふりをして彼女も君も辛い思いをさせてしまった。本当にごめん」

「オレは君とのこれからを考えることが出来ない、だからこれでもう終わりにしてくれないか」

言葉がでてこなかった。
ただ頷いた。

これ以上何かをしても、茂さんの心は私の元に戻ってこない、いや、もともと心なんか無かったことに気がついた。

気がついていていたけど、気が付かないふりをしていた。

「タクシーを呼ぶから少し待ってくれる?」

やっぱり、優しい。

優しい遊び人だった。


「大丈夫です、一人で帰ります」


私は一人で歩き出した。
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