タングルド
賢一が副社長に就任してからバタバタと忙しなく、気がつくと半年が経っていた。

春が過ぎ、夏が過ぎて秋も深くなった。
時間が取れた時に少しずつ部屋を形作っていき、二人の関係も進んでいる。

たとえば、夫人に誘われた温泉というのが賢一のお祖父様というか、先代社長の邸宅を指していたとか!てっきり、どこかの温泉ホテルとかだと思っていたのに。

そして

ドレッサーの引き出しには、普段使いにはできないというか、いったいどこで使ったらいいのかわからない指輪が仕舞ってある。




先日、夜の東京タワーに誘われた。
思えば、東京タワーに来たのは何年前だろう?中学生のときとかそんな感じかもしれない。
展望台からの夜景は宝石箱をひっくり返したような輝きで、今まで来なかったことを後悔するくらいだった。

賢一が急に立ち止まり、膝をつくと小さなケースの蓋を開けた。

「これからきっと、今よりもっと忙しくて大変になると思う。でも、雪が隣にいてくれたらどんな試練も乗り越えていけると思う。だから、ずっと俺の隣にいてほしい。結婚してください」


賢一はもともとロマンチストなのか、私の愛読書を参考にしているのか、でも一生に一度のプロポーズがキザで少し恥ずかしいけどすごく嬉しくて下を向いたら


自分の足元がガラス張りで遥か下の景色が見え、賢一の手に何があるのかわからなかった。

「ひゃあぁぁぁぁぁ、わかりましたぁぁぁ」

びっくりし過ぎて、それだけ言ってよろけた私を慌てて抱きとめた途端、周りで見ていた人たちからナマあたたかい拍手が起こった。

少し不貞腐れていたら

「吊橋効果のつもりだったけど、ゴメン」
とか言いながら笑っている賢一を見ていると、私まで可笑しくなって笑ってしまった。
そして、左手を差し出すと大粒一粒ダイヤのリングをはめるとその指先にキスをした。

来年の春、私は大島になる。

たくさんの糸が絡まって、それが解けた先に賢一がいた。

これからも色々な人に出会い、別れていくことになるけど私たちはきっとずっと二人で歩いていく。


fin
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