タングルド
「お母ん?う〜ん、もうなんとも思わないかな。お母さんは私たちの“母”ではなくて“女”だからね。しっかり私たちにトラウマも刻みつけてくれたし。花はどう?少しは母さんの呪縛は解けた?」

「わたしは一生、母さんを許さないし顔も見たくないと思っているのに」

「母さんに会ったの?」

「うん」

「またお父さんにたかりに来たの?」

「復縁を迫りに来てた。わたし、子供の頃はお母さんに捨てられた事が悲しかった、でも、成長するとともに母さん(あの女)が醜悪な化け物に見えて」

今まで花とお母さんについてじっくり話すことは無かった、お母さんの話をすると決まって花の感情が不安定になっていたから、だから私は何も言わずとにかく花が吐き出したいだけ吐き出させようと思って、ただじっと耳をかたむけていた。

「あの人がお父さんよりも大好きな人に巡り会って、その愛を貫く覚悟があったのなら、ここまで嫌いにならなかったかもしれないけど、二つの家庭を壊したくせに、あっけなくお父さんの元に戻ろうとして拒絶されたら次の男を、その男に捨てられるとまたお父さんの所に来るとか、ずっとその繰り返しで、癌になった時はお父さんしかお母さんを助ける人がいなかったし」

花はカップを持つ手に力を込める。
お母さんに甘えたかったはずが、捨てられたことに傷ついて町で仲が良さそうな母娘を見ると目を腫らしていた。

「お父さんとしては、あくまでも私たちの母親だからという気持ちがあったんじゃ無いのかな?お父さんはもっと自由にしてくれてもいいのにね」

「そうそう、お父さんねお付き合いしてる人がいるみたいなの」

母親の時には硬い表情も父親の話となると花の表情が和らぐ。

「えっ!そうなの!!いつから!!!」

「お姉ちゃんの結婚が決まった後くらいかな、お姉ちゃんが片付いて安心したって言ってたから」

「どんな人?」

「凄く優しそうな人だったよ」

「会ったことがあるの?」

「うん、一度だけね。だから、母さんに出てこられるのが嫌なの」

「そっか、お父さんにも春が来たか、ところで花はどうなの?」

花は急にモジモジとし始めた。

もしかすると、これが本当に言いたいことなのかも。

「好きな人ができたの?」
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