タングルド
部屋に入るとずっと泣いていたんだろう、目を腫らし、鼻は赤くなっていた。

おれが花を泣かせてしまった。

椅子に座る花の前で正座をして、花の顔を覗き込む形で声をかける。

「ごめんな、ちゃんと話すから。森川さんに何を言われたのかはわからないけど、おれと森川さん、そして兄さんのこと、花が聞きたいことも全て話すから」

花はコクンと頷いた。

「森川さんとは11年くらい付き合ってました。ただ、森川さんとは幼馴染で彼女はずっと兄さんのことが好きだったんだ。それで、森川さんが高校に入学するタイミングで兄さんに告白したけど断られて泣いていて、そこにつけ込む形でおれが森川さんに告白して付き合うことになったんだ。だから、おれが中学の時から付き合っていたことになる。」

膝に置かれた手の甲に涙がぽたぽたと落ちてくる。どうしていいかわからず、横に置いてあったボックスティッシュから勢いよく数枚を抜き取ると花の手の甲を拭いた。

「でも、付き合っていた間も森川さんが好きなのは兄さんで、話を聞いていると思うけど仮の婚約者をしている時、兄さんんが帰国した途端兄さんに執着しはじめて、兄さんとの婚約から結婚を強行しようとしたんだ。焦ったおれは森川さんを有る方法で縛ろうとしたんだけど」

さすがに、妊娠させようとしたなんて言えないし、このあたりをどう説明したらいいのか悩んでいると

「妊娠」

バレていた

「そう、卑怯だけどおれとの子供が出来たら兄さんを諦めてくれると思った」

恐る恐る花を見ると、ティッシュで鼻を押さえながらも明らかに好奇の眼差しでおれを見ていた。

「どうなったの?」

「あっ、えっ」
「えっと、その生理が来ないっておれじゃなくて兄さんに報告して、兄さんの子として生みたいって、もし兄さんが嫌なら堕すって言われてたって」

「何それ!」

「あっ、うん。それで兄さんから連絡をもらっておれが立ち会って検査薬で検査してもらったら、陰性だった」

「待って、森川さんって新と付き合っている間ずっとお義兄さんが好きだったてこと?」

「・・・うん。おれと付き合うことで兄さんと間接的にでも繋がっていたかったって言っていた」

「それって」
花は言葉に詰まったように、黙ってしまった。

「だから、義姉さんと兄さんの仲のいい写真を見せれば諦めてくれると思ったんだ。それが、義姉さんを傷つける原因になってしまって、怒った兄さんが森川住販を潰して、全てを精算したんだ」

「あの日、両親の前でも森川さんは兄さんをずっと好きだと公言して、すごくショックだったけどまだ森川さんに気持ちが残っていて、両親が待たせていたハイヤーで森川さんを送っている時に、一度もおれを好きだと言ったことがないことに気がついたんだ」

いつの間にか泣き止んだ花は目が合うと、手のひらを見せて催促している。

「考えてみたら11年もの間、二人の交際は両親にも秘密にしていて、だからこそ、兄さんが仮の婚約者になっても疑われなかった。もしかしたら、兄さんの代わりにすらなっていなかったんじゃないかと、この後に及んでも兄を好きだと言った森川さんに絶望した」

花はうんうんと頷きながら、またもや手のひらを見せて催促する。

「そんなことを考えていたら、森川さんがおれの手を握って言ったんだ。“あなたしか残ってないから仕方がないわ”って」

「ええええええええ、ごめんなさい。それで?」

「そこでやっと目が覚めた。森川さんはこれっぽっちもおれを好きだったことはないんだって、そこで別れを伝えたんだ。だから、おれ達はもう別れているだよ」

「ねえ、それって。セフレってやつだったわけ?」

「え?あっ」
そう言われると、誰にも言えない関係だった。
恋人だと思っていたのはおれだけだったのかもしれない。
花に指摘されてなんだかストンと腑に落ちた。
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