タングルド
番外編 初恋の終わり
番外編 初恋の終わり

「森川さん、昼休みちょっといいですか?」

社内がざわつくのがわかる。花が来た時に、他に人がいる前で義姉を泥棒猫と言ったという事で色々と憶測を呼んでいるらしい。

そして何より皆んなが気になっているのが
「いいわよ新二くん」
おれを名前で呼んでいることだった。

「森川さん、いい加減おれを名前で呼ぶのはやめてください。いくら幼馴染でも公私の区別はきちんとしてください」

一瞬きょとんしてから「ごめんなさい」と小さな声で応えた。

12時になって森川さんのデスクに行くとそこにはすでに森川さんがいなかった。朝、注意したことに不貞腐れているんだろうか?

「森川さんは?」

花との一件ですっかり噂の的になってしまっているため、周りは興味深々と言った感じだ。

「森川さんなら今出ていきましたよ、でもポーチだけ持っていっているから戻ってくると思います。」

「そっか、じゃあここで待っているよ」

「ところで、大島くんと森川さんって幼馴染だったんだ」

「そう、森川さんは昔、近所に住んでいたことがあって、兄さんとおれと森川さんで一緒に遊んだり、勉強したりしてたんだ」

「だから、ここを最初助けようとしてたんですね」

幹部以外は森川住販からそのまま勤めている人が多いため、立直しに兄さんが一枚噛んでいることを知っている人たちもいる。

「うん結局、こういうことになったけどね」

「いや、俺たちはすごく感謝してるんです」

「そうですよ、ISLANDに代わって待遇も福利厚生も凄く良くなったんです」

「それならよかった」
それは全部兄さんのおかげなんだよな。
おれも兄さんに及ばなくても近づきたい。

こんな風に会社のことを話したのは初めてかもしれない。おれは今こういうことを直に聞ける場所に居るんだ。

おれは仕事を覚えてこなすだけではいけないんだ。
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