タングルド
急いで玄関に行き、靴を履くとドアを少し開けてそこから外に出た。

「何しに来たの」

「雪?あなた雪なの?一瞬わからなかったわ」

「だから、私の質問に答えて」

女性の腕を掴むと玄関から死角に入る所に移動する。

「すごく綺麗になって、本当に久しぶりね」

目の前の女性は綺麗に化粧もネイルもして、パッと見なら年齢よりも若く見えるが、近くで見ると若造をしているのがありありとわかる。
この女の本性を知っているから、その容姿はあざとくそして醜悪に見えた。

「何度も言わせないで、何をしに来たの」

「そりゃあ、パパに会いに来たに決まってるでしょ」

「父さんが来ていいって言ったの?」

「パパは口に出すタイプじゃないから、でも来ると嬉しそうだし」

「もう一度聞くけど、父さんはあなたにまた来ていいって言ってるの?」

「だから、態度でわかるのよ」


そうか、この人は森川彩香に似ているんだ。

「父さんはあなたに会いたくないわ、もう二度とここには来ないで」

「親に向かって失礼な子ね」

親?誰が?

やめてよ、あんたなんか親じゃない。

「私たちを捨てておいて、おとこ」
肩をポンと軽くタッチされ我に返る。
振り返ると賢一が立っていた。多分、目の前の女性が誰なのか察したのかもしれない。

賢一はポケットから車のキーを取り出して私の手に握らせた。

「車で待っていて」

小さく頷くと、母だった女の手を掴み駐車場へ向かった。

女を後部座席に座らせ、私は運転席に座った。
並んで座りたくないし、顔も見たくなかった。

「私たちを捨てて出て行ったあなたが今更何んの為に家に来るのか?と聞いているの」

「あの時は本当に悪かったと思ってるの、周りが何も見えなくなって、あの人と出会ったのは運命だと思った。でも、癌になった時、わたしを心配してくれたのはパパだけだったの。本当の運命の人はやっぱりパパなんだって」

運命?あながたそんな言葉を使わないで、気持ち悪い。

「だから、パパに応えてあげようと思って」

どうしようもなく、胸がムカムカとする。

父さんは優しすぎる。

うんざりしていると、コンコンという音のする方をみると、肩を大きく上下させ、ものすごく走って来たであろう父が窓をたたいていた。


賢一が父さんに伝えてくれたんだ。

父さんは後部座席にいる女を車から降ろすと低くそしてはっきりとした口調で

「何度も言っているが、手術費を出したのはあくまでも雪と花にとっては君は母親だからだ。ただ、今後一切は1円たりとも君には出すつもりまないし、わたしと君は赤の他人なんだ。今後、まだ家にくるならストーカーとして警察に突き出す」

さすがにストーカーという言葉と警察という言葉にたじろういだようだった。
「ごめんなさい、でもパパも一人じゃ寂しいでしょ?だから、私が戻ってあげようと思って」

厚顔無恥というのはこの人のためにあるんじゃないだろうかと思うほど、この女性の言葉は聞くに堪えない。
ヒロイン妄想とでもいうのだろうか、綾香る(あやかる)という言葉でもつけてやろうかと思ったが、ここで私が言葉を発してはいけない気がした。

「結構だ。わたしは再婚するから君が来るのは迷惑でしかない。これ以上は言わないから、きちんと理解してくれ。二度とここへは来るな。来たらストーカーとして警察に言う。」
「さぁ雪、行こう。みんなが待ってる」

母だった人を残して二人で家に向かって歩いていく。


「父さんはちゃんとあの女(ひと)のことを拒絶していたんだね」

「そりゃ、わたしが彼女を受け入れる理由が無い。拒絶をしたのは彼女なんだから」

「うん」

「賢一くんも新二くんもいい子だね。安心したよ」


「うん、凄くいい人よ。お父さん、幸せになってね」


「わたしは今までだって雪と花のおかげで楽しいよ、親としてあまりやってあげられなかったけどな」

「お父さんとしては満点はあげられないけど95点ね」

「それだけあるなら上等だ。そうだ今度、敬子さんとソシアルダンスを始めようと思ってるんだ」

「Shall we ダンス?の?」

「まぁ、そうだな」

「素敵!しかも健康にもいいじゃない!上達したら見せてね」

「はははは」
「さて、家に着いた。皆んなが待ってる」
< 223 / 226 >

この作品をシェア

pagetop