タングルド
あの給湯室の前を通らないといけないと思うと憂鬱になる。
茂のことは吹っ切れたと思っていても、あの日の惨めな自分を思い出すのはやはり嫌だ。

「秘書課の    さん」

「えっ   た さん?」

夜ほどでは無いが、相変わらず声が漏れる給湯室だ、しかもそれが、多分自分自身に対しての噂だと聞こえなくてもいいと思っても聞こえてきてしまう。

「豊田さんって北山さんと    って」

「本当に?あの二人って長いよね?」

どうしよう、給湯室の入り口に到着してしまった。このまま何食わぬ顔をして通過すれば気づかれないかしら?でも、どちらかがこっちを向いていたら・・・

何んで私がこんなに嫌な思いをしないといけないんだろう。
でも、どうして別れたことが広がってるんだろう?
知っているのは私と賢一と茂と・・・茂の今カノ
もし茂が言いふらしているのなら軽蔑する。

「なんかぁ〜豊田さんが秘書課の大島さんと浮気をしたらしいよ、それで北山さんが怒って別れったって」

「うそっ!大島さんって年下だよね?」

「大島さんって女関係で飛ばされて来たって言われてるでしょ、セフレの一人として豊田さんを誘ったら豊田さんが本気になったっていう話みたい」

「わたしも大島さんに誘われたらついて行っちゃうかも」

「でも大島さんに遊ばれて北山さんに捨てられるとか惨めだよね」

思わず手に持った封筒を強く握りしめていた。


悔しい、浮気をしたのは茂の方なのになんで私がそんなことを言われないといけないの?

もう何も聞きたくない。

足早にこの前を通過すればこんな悪意に満ちた言葉を聞かなくて済む。

意を決して歩き出そうとした時、誰かが私の肩をポンと叩いて給湯室に入っていった。
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