タングルド
「北山、新入社員の宮澤さんをお前の補佐につけるから」

その一言で研修を終えたばかりの宮澤萌子がオレの隣の席になり事務作業を手伝ってもらうことになった。
新人だから仕方が無いと思うが、正直自分一人でやる方が仕事が早く終わった。だが、これはあくまでも新人教育の一環で先輩であるオレが仕事を教えろという事だと理解はしているが、なかなかにキツい。
おかげで残業も増えてきた。

「北山さん、ランチとかご一緒していいですか?このあたりのお店とか知らなくて」
と言われれば、雰囲気を壊すわけに行かずランチに行くこともあった。
割り勘という訳にはいかず、オレが支払うことになるがそれに関してなんの疑問も持たない宮澤という女にイラついた。

雪と付き合うようになってから、飲み会や合コンは断っていたが営業部主催の新人歓迎会だと出ざるをえない。
しぶしぶ参加したら、宮澤が無茶な飲み方をして酔い潰れた。

「教育係の北山、お前が宮澤さんを送っていけ」
などと上司の鶴の一声で連れて帰る事になった。

かろうじて宮澤さんの財布から免許証を見つけてタクシーの運転手に見せるとそこに書かれた住所に向ってくれたが、到着しても一人で立つことも出来ないほど酔っているようだった。
そのままタクシーから追い出すわけにもいかず部屋の鍵をバックから探し出し部屋に入った。
電気のスイッチを見つけて電気を付けると、整頓されているとはいえない感じの部屋に少し乱れたベッドが目に入った。
そこに、寝かせ出て行こうとしたところで抱きつかれた。

「ずっとずっと北山さんが好きなんです。彼女がいるのは知ってます。一度だけ抱いて下さい」

「そんなこと出来るわけないでしょ」

「彼女にバレるようなことはしません、一度だけしてくれたら諦めますから」

さっきまで腰も立たなそうだったはずの彼女の力強い手に少しイラついた。
「一度だけでいいんです。ちゃんと諦めます。酔った勢いの過ちでいいんです」

イライラした。

面倒くさかった。

「オレは彼女を愛してるから、今あんたを抱いても情はわかないよ」

冷たく言い放つオレにそれでもいいと服を脱ごうとするのを止めて着衣のまま乱暴に抱いた。

なんの感情も持たず。
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