タングルド
大丈夫だ聞かれてない。
そう思っても、後ろめたい気持ちから言葉が出てこなかった。
普段なら、うまく立ち回れるのに雪の前だとウマくいかなくなっている。

雪が手に持っていた物をゴミ箱に捨てる。
その姿に取り返しの付かないことになっていることに気付かされた。


「ここって、空気孔が廊下に面しているから話は筒抜けだよ」

「「えっ」」
思わず宮澤さんと同じタイミングで声がでてしまった。
どこから聞かれた?

「乗り換えはご自由にどうぞ、私は下車しますので。じゃあ、そういうことでバイバイ茂」

いつもよりも低い声だった。
こんな声がでるんだ、初めて聞いた。そんなどうでもいいことばかり考えてしまう。

雪を追いかける?
だとしても、仕事は残っている。
今追いかけてもまた戻ってこなくてはいけないのなら、まずは仕事を終わらせよう。

雪が捨てた袋をゴミ箱から拾うと席に戻る。
後ろで宮澤さんが何か言っているようだったが、どうでもいい。そんなことよりも仕事を終わらせて雪に会いに行こう。

レジ袋の中をのぞくとクレープとウーロン茶、そしてエナジードリンクが入っていた。
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