タングルド
昨夜はどうしたのか凄く気になるが連絡が付かない。
誠心誠意、謝れば許してくれるのではないかと思っていた。
今まで誰かに執着をしたことがないから、こういう時にどうすればいいのかわからない。

とにかく話をしなくてはいけないという思いで雪のマンションに来ると雪の部屋には灯りが付いていた。

「部屋に居る、しっかりと伝えよう」
口に出して自分自身を奮い立てて部屋に向うが扉が近づくにつれて緊張してくる。

インターフォンを押す

「なにか用?忘れ物があるなら後で送っておくから」

冷たい声がインターフォンのスピーカーから聞えてくる。
「話がしたいんだ」

「話すことは無いし、北山くんの女性遍歴が多いわけがわかった。結局、こういう事なのね」

「違う、いや・・・本当に悪かったと思っている。きちんと話をしたいんだ、部屋にいれてくれ」
雪と付き合う前のオレはたしかに恋人にたいして不誠実だった。それは、彼女達に対して執着がなかったから。
雪の元カレや母親のことで恋人とというものに不信感を抱えていたことを理解していたのに、バカな事をしてしまった。

沈黙が流れる

雪の顔を見たい、抱きしめたい。
「開けてくれ」


どうすれば会ってもらえるだろう、何て言えば・・・
普段はスラスラとでてくる言葉は出てこない。
逡巡しているとインターフォンの向こうから男性声で「いいえ、お帰り下さい」とキッパリとした声が聞えてきた。

「ふへっ!け・・おおしまくん・・」
雪の慌てた声が聞こえてきた。

おおしま?

「大島・・・なんで雪の部屋にいるんだ?」

どういうことだ?訳がわからない?雪が浮気をしていた?


「昨日から付き合うことになったんですよ。別れてくれてありがとうございます。知り合ったときには雪には恋人がいて諦めていたんですよ、恋人がいる人を誘惑して“浮気”させることはしたくなかったから。そういうわけなので、帰って下さい。今後も彼のいる女性を誘ったりしないで下さいね“元”彼さん」

大島賢一・・・海外事業部から秘書課へ異動になった男、たしかオレたちより年下だったと思う。

「雪・・・大島の言っていることは本当か?」

「若い彼女がいるのだから私にはもう関わらないで」
その一言ともに通信が切れた。

オレの彼女は雪だけだよ・・・

大島、女子社員の中でも人気のある男だ。気の利いた言葉をかけるわけでもなく、付合いがいいわけでもないが女性が寄ってくる、そのくせ女の影を見せないヤツだ。
大島が台湾にいた頃一度だけ一緒に仕事をしたことがあるが、誰もが認めるデキる男でなおかつイケメンだ。
通常なら海外事業部でそのまま上に上がれる様な男の秘書課行きは腑に落ちなかった。
女性問題で異動させられたと噂されているが、たぶんデキない男や大島に振られた女達のやっかみだと思う。

だからといって、だまって雪を取られるわけにはいかない。
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