タングルド
とは言うものの真っ直ぐに帰る気にはなれない。


C rowに寄っていこう、一人でふらっと寄れる店ができてよかった。
和也さんと少し話をすれば気分も幾分良くなるかもしれない。

店内は結構賑わっている、実は隠れた人気店だったのかしら?確かに落ちつくしオーナーもイケメンだし。
よくよく見ると女性同士のお客もいるようなのでオーナーイケメン説は当たっているかも。


そんなことを一人で想像していると、私の姿を確認した和也さんは笑顔で「いらっしゃい、ここしかないけどどうぞ」と一席だけ空いていたカウンター席を勧めてくれた。

「今日は一人?」

「賢一は今日は先約があるんですって、ただ会社でちょっと嫌な事があったから美味しいお酒を飲んでから帰ろうと思って」

「えっ」
隣に座っていた男性が驚きの声を挙げたことにびっくりしていると和也さんがすこし気まずそうに微笑んでいる。

どうしよう、何か話をかけるべきだろうか?でも、「えっ」と言っただけで関係ないかもだけど、和也さんの表情が気になる。

「いきなり声を出してすみません。もしかして、兄の知り合いとかですか?」

どうしようか悩んでいると彼の方から話をかけてきた

兄?

鳩が豆鉄砲をくらうとうのはこういうことだろうか・・・

戸惑っていることがわかったのか

「新二くんは賢一くんの弟なんだよ」

あっ、そう言えば似てるかも。
賢一がいないところで彼女ですとか名乗るのはおかしい気がする。

「大島さんとは同じ会社で働いてます、同僚?って感じでしょうか」

「そうなんですね、オレは大島新二です。今年大学を卒業します」

「豊田雪です」

「豊田さんも秘書課?」

「美人で仕事も出来そう、モテますよね」

「えっっと、モテないですよ」
今一、会話の持っていきようがわからなくて戸惑っていると、目の前に炭酸が入っているのかきめ細かい泡の中にイチゴが氷とともに入りミントの葉が浮かんでいるカクテルが置かれた。

「可愛い」
28歳だとしても可愛いものは好きなのだ。

私の反応が思ったより良かったのか和也さんも満面の笑みをたたえている。

「ローゼスストロベリーです」

口に含むと甘酸っぱさとローゼスの華やかな香りが口いっぱいに広がる。
「おいしい、香りも味もそして炭酸がすごくスッキリする」
思わず右手で頬を押さえる。

「豊田さんって、美味しそうにお酒を飲むんですねみているだけで楽しくなります」

「本当に美味しいんです、実は最近このお店を知ってカクテルに目覚めたところなので和也さんの作るカクテルのファンなんです」

「だって和兄、よかったね」
新二は揶揄うような表情で和也さんをみてから
「兄さんもオレも大島で紛らわしいから新二って呼んでください。オレは雪さんって呼ばせてもらいます」

気がつくと場の主導権をしっかりとっているあたりは賢一によく似ていると思わざるを得なかった。

結局、新二さんには賢一と付き合っていると言うことは言えず、しばらく話をしてから店をでた。


< 87 / 226 >

この作品をシェア

pagetop