タングルド
待ち合わせの為にCrowに行くと和也が待ち構えていた。
「驚いたね、まさか賢一君の思い人がこの店に入ってくるなんてね、こういうのを飛んで火に入る夏の虫ってことなんだろうね」

「いや、その表現ちょっとおかしいでしょ。瓢箪からコマ?いや、棚から牡丹餅だね」

「浮かれるのはわかるけど、なおさら気をつけないと彼女をキズつけてしまうよ」

「わかってる、こんなことになるなら・・・、今さら言っても仕方が無い」


カランとドアベルがなり愛おしい人が入ってきた。
しばらく話をしているとスマホが震え着信をしらせる。表示された名前にうんざりしていると和也が気がついて電話にでるように促された。


お手洗いに行くと洗面台のところで通話ボタンをオンにする。
「どうしたの?」

「今、大丈夫だった?ごめんね」

「何?」

「義父さまはフレンチよりもやっぱり和食の方がいいのよね?」

「どっちでもいいと思うよ。両親は彩香さんと食事をすることが目的なんだから、だから彩香さんが行きたいところで決めればいい。むしろ新二と決めたらどうだろう?」

「でも、新二さんは関係ないでしょ・・・今は」

「関係ないとは思わないけど」

「わたしね、このままでいいと思うの」

「それは、今ここで話すことでは無い。食事会のことはまかせたから。じゃあ」

「まって、けん・・・」
まだ何かを言っていたが通話を切った。これ以上聞いたところで仕方が無い。
「はぁ」
ため息が出た。




「その雪さんが偶然にもここに現れて、そこに賢一くんが居合わせるって、これって運命だよね」

席に戻ると和也と雪が盛り上がっていた。

「何が運命だって?余計なこと言っていないよね?」

「なにも」という和也の顔がおもいっきり含みのある表情で相変わらずのくせ者だと思った。

「あっキャロル、ごちそうさま」
そう言って雪はカクテルグラスを指さした。

雪がカクテルをこれから飲んできたいと言う話をしていたから、和也に雪がきたら「キャロル」を出して欲しいと伝えていた。
キャロルのカクテル言葉は「この想いを君に捧げる」だ、いささかキザで今までの俺ならこんなこっぱずかしい事はしないがオフィスラブに憧れる恋愛小説好きな雪をオトす為ならどんなキザ男にでもなれる気がする。

「どういたしまして、じゃあ行こうか」

「え?」

「雪の部屋、行くっていっただろ」

「そもそも、浮気してたのは向こうだし今更私の部屋に来ることは無いんじゃないのかしら?」

「俺はこの2ヶ月を有益に使いたいし、元カレさんの痕跡を跡形も無く消し去りたいって感じかな。かなり焦っているんだ」
2ヶ月間は雪は俺に付き合ってくれるだろう、それならその時間を無駄にしたくない。

その先の未来の為に。
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