「大好き」なんて嘘だった
寝癖を丁寧にとかして直して、ストレートアイロンで艶を出す。ヘアオイルは好きな香りのものを付けて、ヘアピンもパールの付いたお気に入り。
久しぶりに履くミニスカートはやっぱり私には可愛すぎる気がして、いつもの黒いスキニーが恋しくなる。少し厚底の靴も、ピンクでまとめた服やメイクも慣れない。
最後にグロスを唇に塗って、んぱ、と擦り合わせる。
鏡に映った私は私史上最強に可愛かった。恋する乙女の顔をしていた。
誰がどう見ても、デートの前に気合を入れる女子にしか見えないだろう。そう考えると少し気恥しい。
まぁ、デートでは無いにしろ好きな人と二人で会うのにお洒落するなという方が無理な話。私はそう無理矢理自分を納得させた。
「行ってきます!」
誰もいない家にそう叫んで、玄関の戸を開ける。
失恋しているとはいえ、純粋に楽しみだった。
2年前、私が恋したあの人は変わったのだろうか。それとも昔のままなのだろうか。
スマホにイヤホンを繋いで街を歩く。悠希との待ち合わせは隣街で、10分ほど電車に乗る。いつもは大人っぽい洋楽のプレイリストを聞いているが、今日は可愛いKPOPの気分。
耳に慣れないアップテンポで爽やかな曲を流して苦笑した。
恋してるだけで、こんなにも馬鹿になるとはなぁ。
待ち合わせ時刻より5分早く着く予定の電車に乗った。休日とはいえ朝なので人は少なく、車両の中にいるのは5人ほどだ。
遠慮なく端っこの座席に座り、意味もなくスマホをいじる。すると、隣に人が座る気配がした。
電車の席はたくさん空いているのに、どうして?
そんな思いで隣を見て__私は目を見開いた。
「せーんぱい、どこ行くの?デート?」
私の左耳に収まっていた白いイヤホンは彼の手の中。私より高い位置にある、人好きのする笑顔と黒髪。
「……間宮」
同じ学校の、もっと言えば同じ部活の生意気な後輩が、そこに居た。