Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!



『岡崎先生。私、この前、先生が食べ逃した朝のツナマヨおにぎり、今、一緒に食べたいです。』

「ツナマヨ?」

『はい。先生の朝帰りの時に食べ逃したツナマヨの味、知りたいです。教えて下さい。』


叶わない恋を自覚してつらくて切ない朝を
想い出深い朝にしよう
それも実習のいい想い出になる

岡崎先生の中の記憶にも残ってくれるといいな
うっかり朝まで一緒に居眠りしちゃって、ツナマヨおにぎりを一緒に食べた実習生がいたんだ・・って、
彼がおじいちゃんになった時にも、笑ってくれるような想い出になるように


「真緒・・・まったくお前は・・・えぐるなよ。朝帰りとか。」

『えへへ。』

だから
あたしはあたしらしく
前向きに、朝帰りを学ぶ
自分が好きだと初めて自覚した相手と過ごす朝帰りというものを・・・


「言っておくけど、あの時は朝帰りしてないから。あっ、ツナマヨはないけど、昨日の夜、真緒が目を醒ましたら食わせてやるつもりだった焼豚チャーハンならあるぞ。」


早速、前向きに学ぼうとするあたしの耳に
岡崎先生の、整形外科病棟事務女性との朝帰り疑惑がシロだったという朗報が本人の口からさらっと入ってきた。

叶わない恋が確定しているから、今更かもしれないけれど
聞きたくても、ちゃんと聞けていなかった事のひとつが解決!

やっぱり前向きな気持ちを持てば
いいことあるんだ!



『また焼豚チャーハンですか?でも、焼豚チャーハン、イエイ!』

「なにがイエイだよ、ほら、食え。」


無造作にパッケージの上半分だけ開けられて目の前に差し出された、海苔なしの丸いコンビニの焼豚チャーハンおにぎり。
それを、大きな口を開けてパクリ!

昨晩、何も食べていなかったお腹。
そのせいか焼豚チャーハンの甘じょっぱさを、やけに濃く感じながら、わざわざパッケージを開けて差し出してくれた彼の優しさに、やっぱり好きだと思わずにはいられなくて


「お前、直接食いつくか~?普通・・・」

『女子はこうやって食べるんですよ。一口ちょうだい交換するときは。』

「じゃあ、俺にも教えろ。その・・・なんだっけ?一口・・・」

『一口ちょうだい交換・・・ですよ・・・でも、これ、あたしの食べかけ・・・』

「いいから教えろ!知りたいんだよ!今、すぐに!ほらっ」


いつもの彼らしくちょっと横柄にそう言い、照れくさそうに口を開けて、あたしの食べかけ焼豚チャーハンおにぎりを催促する彼も好きだと思わずにはいられなくて。


「やっぱり美味いな、コレ。」

と、あたしがぎこちなく差し出した焼豚チャーハンおにぎりをパクリとくわえ、美味しそうにもぐもぐ頬張る彼。

その隣であたしは

“岡崎先生、今、やっているそれは間接キスって言うんですよ、知っていますか?”

と密に心の中で彼にレクチャー。


勉強ひとすじになる前の、あたしがまだ女子中学生だった頃にきゃあきゃあ言いながら読んでいた恋愛漫画

その中にあった、公園のベンチでキラキラ美少年が、あり得ないぐらいの大きな瞳のヒロインの手から飲みかけのジュースをさりげなく奪って飲んで、彼女がこっそりとドキドキしているシーン

その頃に覚えた間接キスのドキドキの甘さを今、実感した


実習17日目
残りあと1日

残りあと1日で気がついてしまった、
あたしの初めての、叶わない恋

自称恋愛不器用な日詠先生と同様に
悪あがきかもしれないけれど
後悔しない、甘じょっぱい、朝帰りの記憶を好きになった人と作りたい
ただそれだけでもいい
あたしのそんなささやかな願いを神様が叶えてくれたのか、岡崎先生とこっそり焼豚チャーハン間接キスしちゃいました

そんな悪あがきも悪くない

そんなことを学んだ1日



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