Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!
長谷川さんの、あたしへの温かいメッセージの途中で割り込んできた声。
「まおの実習指導者としてこれ以上、俺よりもまおの記憶の中に色濃く残るようなものことを言うことは認められんな。」
さっきまでのケーシーの上に白衣を着た姿ではなく、
真っ白なスウェットパーカーにいつもの黒のダウンジャケットとビンテージデニム姿の岡崎先生が般若顔であたしの背後に立っていた。
「なんだよ、それ。まおはもう無事に実習終わったんだろ?だから岡崎先生はもう指導者の任務終了だろ?」
「実習は家に帰るまでが実習なんだよ。だからまだ、俺はまおの実習指導者。」
「うわ~面倒くさいな、あんた。俺がまおに言いたかったのは、岡崎先生みたいないい作業療法士になれよって・・・言いたかったんだよ。」
いい話の鼻を折られた格好になった長谷川さんは口を尖らせそう言った後、笑いながら岡崎先生を軽く睨んだ。
長谷川さんの口から面と向かって聞きたかった彼の言葉
それでも、嬉しいその言葉
彼とどう向き合ったらいいかわからなくて苦しんだこともあったあたしだから
『でも、嬉しいです。一生忘れません。長谷川さん、ありがとうございます。』
「まお・・・俺も忘れない。一緒にツナマヨおにぎりの封をどうやって開けるか考えてくれたことも。俺も仕事復帰も挑戦できるよう諦めず頑張ってみるよ。だからまおも頑張れ!」
『はい!お互いに頑張りましょう!』
あたしは長谷川さんから受け取ったツナマヨおにぎりを彼のほうに向け、はにかんでみせた。
ツナマヨを見る度に長谷川さんとの大切な想い出すよというアピール。
それが伝わったのか、長谷川さんも
「まお~!好きだ!」
病院中に聞こえてしまうような大声でそう言い、病衣の上着の右ポケットからもうひとつのツナマヨを取り出して、あたしのほうに向けて高く掲げてくれた。
岡崎先生にフライング気味に口止めされた“好き”という言葉を
“言ってやったぞ”と訴えるようなドヤ顔した長谷川さん。
そんな長谷川さんのその潔さに、あたしはつい、ふっと噴き出して笑ってしまった。
「おい!!!!俺が言った先から、スキだとか!!!」
「うるせえな~、言ったもん勝ちだろ。セコイことやってんじゃね~よ、おっさん。」
「は?」
「じゃあな、まお。幸せになれよ!」
眉間の皺がクッキリと見えるぐらい深くなった般若顔の岡崎先生を横目に、長谷川さんは今まであたしが見た中で一番のビックスマイルでそう言って、バイバイと手を振りながらあたし達に背を向けた。
『はい!長谷川さん、本当にありがとうございました!!!!』
「こちらこそ!」
長谷川さんはあたしのお礼の声に振り向くことなく、前を向いて歩き始めた。
長谷川さん 22才男性
あたしの初めての臨床実習で、初めての症例発表の対象患者さんになって下さった患者さん
作業療法士を目指すあたしに、
患者さんという立場の苦しさ、不安、悩み、そして想いを様々な形であたしに教えて下さった人
あたしは忘れません
あたしが作業療法士になって、どれだけたくさんの患者さんや人に出逢っても
あなたとの出逢い、絆を想い出して初心に戻って努力し続けることを約束します
『・・・・・・・・』
あたしはあたし達のいるこの場所からどんどん離れていく長谷川さんの背中をじっと見つめ、そんなことを心に刻んだ。