Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!



「やりやがったな、あいつ。でも、有言されて実行する男だな。」


長谷川さんとの想い出深い感動的な別れの世界に浸っていたあたしの隣で
岡崎先生があたしのその世界に入りこんできた。
もう会えないと思っていたのに、今あたしの隣にいることに変な緊張感を感じずにはいられない。



『・・・有言されて実行する・・・?』

だからあたしは、彼が口にしたことをオウム返しするのが精いっぱい。


「長谷川くんならきっと真緒を育てる手助けをしてくれる・・ってけしかけたんだ。」

知ってる
あたし、それ、整形外科病棟の処置室のドア越しに盗み聞きしてたもん


『そうだったんですね。』

でも、言わない
その処置室での盗み聞きもあたしの実習での大切な想い出だもん



「真緒、お前もそうだったけどな。」

『へ?あたしが有言されて実行する?』

「言ってみろよ、あの時、俺が長谷川くんに言ったことを・・・」


あたしが処置室で盗み聞きしていたこと、気がついていたんだ
ドアの存在のせいでその影にいるあたしの姿なんか見えていないと思っていたのに・・・


「お前の大切な想い出のひとつだろ?聞かせろよ、お前の声で。」


あたしの大切な想い出の共有を強要する彼。
さっきの、長谷川さんの、ツナマヨおにぎり証拠隠滅の強要ぐらい・・・忘れられない岡崎先生のその強要。

でも拒否なんてできない。
彼の、あり得ないぐらい優しい声での強要・・・だから


『学生なんて、長谷川くんの役に・・・立たない・・・ですよね・・・』



あの時のことを想い出すと、苦しくて涙が溢れてくる
でも、今泣くわけにはいかない
あたしと岡崎先生の・・・本当に最後のお別れ
今はそんな時だから


『でも・・・・』

泣きそうなのがバレないように下を向く。


「ん?」

さっきの言葉の続きを催促するような、彼の “ん?”


『でも・・・ ・』


さっきの言葉の続きが、もう言えない。
涙も想いも溢れそうで、もう言えない。


「真緒、その続き、教えてやる。顔上げろ。」



そんなの無理
泣き顔、見られたくない


「俺の最後の指導、拒むなよ、ほら。」


彼の指導
しかも最後の指導
それを拒むことなんて
実習生であるあたしにはそんな権利なんかない


「ほら。今度はここで泣け。」

『・・・えっ?』


だから顔を上げた
涙をなんとか堪えようと唇をぎゅっと噛んで



そしたらあたしの目の前で

「今度はめいいっぱい、泣いていいぞ。俺以外には知られないようにしてやるから。」

あたしが初めてスキになった人で、叶わない恋の相手になったその人が

「ほら、来いよ、真緒!」

厚い胸板でがっちりとしたその腕を広げてあたしを呼んだ。


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