Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!
こんな指導初めて
強要してるくせに、甘すぎる指導
胸が苦しくなるような指導
好きを諦めなきゃいけないのに、もっと好きになってしまう指導
「お前が来ないなら、俺が行くぞ。早くしないと俺、パワハラ指導者という肩書の上にセクハラ指導者という肩書まで乗っかるだろ?」
あたしが彼の腕の中に飛び込んでいい理由までくれている
そんなこと言われたら、あたしには彼の甘い指導を拒む理由がもうない
『・・・岡崎・・せんせ・・い。』
だからあたしは勢いよく彼の腕の中へ飛び込んだ
涙が溢れる
自分ではもうどうにもならない
彼特有のグリーンウッドの爽やかな香りがあたしの涙をとめどなく引き出す
肌で彼の体温を感じられるこの距離にいても胸の疼きが感じられないのはきっと、自分の想いに蓋をすることをやめて、泣きたい気持ちを我慢せずに、自分の意思で彼の腕の中に飛び込んだからだろう
「“学生なんて、長谷川くんの役に立たない・・・でも、真緒は違う”・・だろ?さっき、お前が言いかけた想い出のひとつ。」
さっきあたしが言いかけて、涙で言えなくなった言葉を彼の腕の中で聞いた。
真緒は違うという彼の言葉。
それもあたしの大切な想い出のひとつ。
「そうやって、俺はお前にいっぱいプレッシャーをかけて辛い想いをさせた。今日の症例発表だってそう。助け舟を出してやるどころか、厳しい質問を誘導してお前を追い込んだ。」
それなのに、彼は自分を責めた。
確かに知識も技術もないあたしには厳しい質問ばかりだった
でも、岡崎先生ぐらいの、経験も知識も豊富な作業療法士なら、多分、理解していて当たり前なものばかり
「俺はここまで学生を厳しい状況に追い込もうなんて、いつもはしない。真緒だから・・・真緒は他の学生と違うから・・・」
実習生の出来不出来は指導者の指導の出来不出来の評判にも関わるはずなのに、岡崎先生は敢えて、事前に質疑応答対策であたしに模範解答を教え込むようなことをしなかった
それはきっと、臨床現場の厳しさをあたしに肌で感じさせてくれようとした岡崎先生の親心から来るものなんだろう
でもこんなにも出来が悪いあたしが
他の学生とどう違うんだろう・・・?
「他の学生なら、なんだかんだ無理やり専門用語とか引っ張り出して、質疑応答をやり過ごそうとする。でも真緒はその厳しい質問に自分を取り繕うことなく、ちゃんと受け止め、できない自分を自ら認め、努力すると誓った。それがこれから作業療法士として従事していくのに必要な心構えだから。」
あたしがこの実習の最初で岡崎先生から言われた
“俺はアルファベットしか読めない” という意地悪な申し出
そんな無茶なと思いながらも、その意地悪な申し出に従い、筋肉や関節名などを医学英和辞典で調べてデイリーノートやレポートに書くという作業を繰り返した結果
あたしは横文字で書かれた彼が記入した電子カルテから情報を拾うことができるようになった
それだけではなく、手の外科カンファレンス中に医師やハンドセラピスト達が交わす会話の中で、所々だけど横文字のワードを拾えるようにもなった
あたしは実習の最初から岡崎先生に作業療法士として必要な心構えを教えてもらっていたんだ
彼が求めた努力をあたしが積み重ねた結果
それが、あたしが他の学生とは違うという彼の評価に繋がったのかもしれない
『岡崎先生・・・あたし・・・』
どSで塩対応は日常茶飯事
絵里奈にも心配されるぐらい鬼指導なこともあった
無茶ぶりも当たり前
でも、そんな彼の心の奥には
こんなにもあたしのことを考えてくれていたなんて
どうしてもこの人があたしにとってただの実習指導者で終わることなんて
あたしにはできない
『あたし・・・岡崎先生のことが・・・好』
「スキとか言うなよ。」