Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!
松浦先生に名指しでそう声をかけられたあたし。
高山駅前で小さな男の子を助けた覚えと指が痛かったことはなんとか想い出せた。
けれども、松浦先生は
「その際に、PIP関節(指の第2関節)が脱臼するまではいかなかったけれど、靭帯が引き延ばされて、それによる強い痛みが出たとかもあったんじゃないかな?・・・それで多分、今も少し、問題にはならない程度のPIP関節の緩さが残っているんだと思う。」
自分が考えもしていなかった、当時、しばらく続いた右手薬指の痛みの原因を探るようなことをあたしに問いかけた。
その言葉に促され、あたしは自分の両方の薬指を伸ばして見比べてみる。
『・・・右薬指のPIP関節・・・左よりもほんの少し過伸展してる・・・』
「そう。過伸展は、正常ではまっすぐまでしか伸びない関節が、異常のある関節では少し反ってしまうこと・・だよね?・・それを伊織は応急処置している君の指の動きの異変を一瞬で見抜いて目が離せなかったらしい。」
『そんな・・・岡崎先生が・・・』
それがあった時
岡崎先生があたしの手を触れていないどころか、応急処置している現場に居合わせていたことなんて、あたしは今の今まで知らなかった
「神林さんの、指の異変に気がついた伊織が、すぐに神林さんの応急処置に駆け付けようとしたんだけど、神林さんがその少年が迷子になっていたことに気付いて、親御さんを探しにすぐに少年を連れて立ち去ったんだよね・・・」
少年の親御さん探しをしたのは、なんとなく覚えてる
親御さんは近くのお土産屋さんで買い物をしていて、親御さんが目を離した隙に少年が転んでいたようで、再会できた親御さんには本当に感謝されたっけ。
「で、その後、岡崎先生はどうしたんですか?」
あたしの隣で同じ話を聞いていた絵里奈。
彼女があたしも聞きたかったことをどうしても早く知りたかったのか、フライングで松浦先生に聞いてくれた。
「あの女の子の指、早く処置しないと・・・ってしばらく探したけど見つからなくて・・・指導者会議までギリギリの時間だったから僕が、もうその女の子、帰ったんじゃないかって諦めさせたんだ・・。」
「それで・・・真緒の、あのスワンネックスプリントが、その時にケガをした右手の薬指に、随分時間は経っていたけれど岡崎先生の手によって作られたワケなんですね・・・」
あたしよりも一瞬早く、あたしの右手薬指にスワンネック変形矯正スプリントが岡崎先生によって作られた理由を把握して口にしたのも絵里奈。
実習最終日の帰り道での特急の中で、彼女が気にかけてくれていたことが彼女と一緒に共有できたことが嬉しく思える
それとともに、2年という時間が経っていても、あたしの右手薬指のごくわずかな変形を見逃さず、見た目ではわからない程度の、ごくわずかな矯正力のある、あたしだけのスワンネック変形矯正スプリントを作って下さった岡崎先生のことも本当に嬉しい
2年前から彼とそんなふうに繋がっていたことも・・・