Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!


あたしは鞄の中に大切に預かっていた彼の部屋の合鍵を取り出して下駄箱の上で置き、逃げるように彼の部屋を後にした。

真緒!!!と叫ぶ彼の声が聞こえてきたけれど、
今は何も聞きたくないと思えてしまって。

あたしは今まで岡崎先生とお付き合いし始めて流したことがなかった完全にしょっぱい涙を流しながら、病院最寄りの駅まで必死に走った。



もしかしたら岡崎先生があたしを追いかけてきているかも・・・
そう思ったけれど、彼の姿はなかった

多分、あの実習生さんに引き留められたんだ
きっと
彼女はあたしを排除しようと強気だったから


だからもう帰ろう
ここにいてもあたしの居場所はない
だから帰ろう・・・

そう言い聞かせながら必死に走った。
でも足元はサンダル。
それは岡崎先生とのレストランディナー前に買ってもらったサンダル。
ヒール部分にひびが入ったら、靴屋さんに修理してもらって履いているそれ。
それを履いたまま無我夢中に走ったら、最寄り駅のホームのコンクリートとアスファルトの境目に躓いて大きくバランスを崩した。

転ぶ・・・そう思った瞬間。



「神林さん?!」

あたしは前方から体を抱きかかえられながら支えられて転ばずに済んだ。
柑橘系の爽やかな香りのする、岡崎先生ではなさそうな背の高い男性に支えられて。



自分の名前を呼ばれた。
しかも、自分が住んでいる高山ではなく名古屋で。
あたしは岡崎先生のことが好き
それを自覚するきっかけを与えてくれた人の声。



あたしはまだ忘れていない
この人は実習中のあたしの大切な想い出を作ってくれた人達のひとりだから

『ひ・・日詠せんせい・・・』

抱きかかえられたまま顔を上げて泣いてしまった。

この人は多分、あたしの苦しさをわかってくれる
だから、今、ここで偶然再会した
そう思ってしまったから



< 203 / 226 >

この作品をシェア

pagetop