Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!


「泣いているんだな・・・とりあえず、ベンチに座ろう。」

『・・・はい・・・。』


彼に支えられてベンチに腰掛けた。
明らかにサンダルのヒール部分が折れかかっているのなんかもう気にしていられないぐらい涙が流れる。

あたしは名古屋に、ここに何をしに来たんだろうって思うと
更に泣けてくる



あたしにはあたしの生活があるように
岡崎先生には彼の生活がある
そんなこと充分にわかっているつもりだった

平日は仕事で忙しくて、休日も学会とか勉強会で時間を取られる
お互いに自分のやるべきことを頑張っているから
会えなくても仕方ない
会えないことで不安になっちゃダメだって自分にずっと言い聞かせてきた

それに岡崎先生はいつでも、あたしはもちろんあたしの家族にも誠実で嘘はつかないでいてくれた

だから、今さっき目の前で見たような
女性が彼の部屋に訪ねてくる約束があるなんて
そんなことは絶対にない・・・
そう勝手に思っていた

でも、あたしは岡崎先生のすべてを見ているわけではない
恋人という存在なはずだけど、遠距離恋愛で一緒に過ごした2年もの間で
彼のすべてを知ったわけでもない

今さっき目の前で見たようなことが現実で起こっても
何もおかしくないんだ・・・・


「涙、拭かせてもらってもいい?」

『あはっ、すみません、あたしってば泣いちゃって・・・大丈夫ですから。』

「大丈夫じゃない・・今の神林さんは。」


日詠先生はあたしの左頬を大きな手でそっと支えながら、あたしの目元、目尻にハンカチを当てて涙を拭ってくれた。


『すみません、ありがとうございます。こんなことして頂いて、レイナさんに申し訳ないです・・・。』

「・・・伶菜・・・か・・・大丈夫だよ。彼女は今、僕の傍にいないから。」



日詠先生の、“彼女は今、僕の傍にいないから”という、あたしを安心させてあげたいという気遣い
泣いていたあたしをほっておけない彼の優しさから来ているであろうそれ
それが今のあたしを苦しめる
あたしが傍にいてほしい岡崎先生は今、あたしの傍にいないから・・・


自分もさっきの若菜さんと同様に彼のもとで実習を受けていた実習生だったからわかる
実習生にもちゃんと向き合う教官だから
実習生が困ったら彼はそれをちゃんと受け止めようとすることも・・・
彼の教え子だったあたしだから、ついさっきリアルに起こった出来事ががあたしを苦しめる


『傍にいなければ、他の人にも優しくするものなんですか・・・男の人って・・・』

「・・・・・・・」

『すみません・・日詠先生にこんなことを・・あたし・・・』

「いいんだ・・・でも、僕はする。伶菜に対してやましいことなんて一切していないという自信があるから。」



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