Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!



『泣いちゃダメ。泣いたらダメになる・・・あたしも、岡崎先生との関係も。』

自分にそう言い聞かせて、今まで岡崎先生と一緒に何度も乗ってきた赤色の普通電車で名古屋駅へ向かった。

でも、高山行きの特急に乗って、夕暮れの飛騨川を目にしてからは
『泣いちゃダメ・・なのに・・・・』
完全に涙腺が崩壊した。

音楽でも聴いて気でも紛らわせようとスマホを開くと
Iori Okazaki着信通知3件

いつものあたしなら、
即コールバックしてた
あたしと岡崎先生にとって通話は貴重なコミュニケーションツールだったから


『今、コールバックしたら、岡崎先生は、絶対にあたしのための言い訳をする。』

『そんなの、いらない・・・あたしに遠慮のない岡崎先生を好きになったんだから・・・・』


でも、今のあたしは
岡崎先生に、あたしが好きになった彼のままでいてほしくて
コールバックをしなかった

たとえこのままふたりの関係が壊れて消えてなくなってしまっても
他人に一切媚びないまっすぐな彼でいてほしい


『だから、しない・・・多分、これでもう終わる・・・』

あたしは泣きながらスマホを、そして目を閉じた。



「真緒、今日、名古屋でお泊りだったんじゃ・・・」

「・・・珍しく早いな、帰りが。」

予定より1日早く自宅へ帰ってきたあたしを両親が玄関で迎えてくれた。
いつものように門限チャレンジでワイワイすることなく静かに。


でも、あたしの涙で腫れた目で何かを覚ったのか、

「真緒、お風呂入る?」

「め、メシ・・先に飯だろ?腹減ったろ。」

予定よりも早く帰宅したことを両親は何も聞いてこなかった。
いつもはしつこく聞いてくる岡崎先生の動静すらも。


『ごめん・・・どっちもまだいいや。』


あたしは彼らに余計な心配かけたくなくて、部屋に直行してベッドで潜り込んだ。
そして枕に顔を突っ伏して、ひたすら泣いた。
泣き疲れて眠ってしまうまで。


その後、翌日になっても、明後日になっても、1週間経ってもあたしのスマホには岡崎先生からのLINEも着信通知も映し出されることはなかった。


『もう終わったんだ・・・もう過去・・なんだ・・岡崎先生にとってあたしは・・』


もう涙が空っぽになるぐらいいっぱい泣き続けて。
流れる時間とともに、スマホの着信音が鳴ることに徐々に期待をしなくなったあたしがいた。

そんなあたしだけど、職場の教育プログラムの一環として演題発表をすることになっている全国作業療法学術研究会の日がどんどん近付いている

失恋して精神的に落ち込んでいるからという理由でその研究会への参加を取りやめるわけにはいかない
そこで演題発表しなければ、来年、作業療法士4年生としてのスキルアップ院内研修の機会を与えられないからだ

その院内研修を受けられない イコール キャリアアップできない

作業療法士の世界は養成校が増えていることに対して、従事する場所がさほど増えていないという現状
つまり飽和状態になりつつある

作業療法士としてこの先もずっと生きていくと決めていたあたしにとって、キャリアアップが中断してしまうのは大きな痛手

だから、もうわき目をふらずに取り組むしかないんだ
今、自分ができることを精一杯に・・・


『やること、いっぱいだ~!!!!』


あたしは名古屋で岡崎先生から逃げたあの日から5か月間。
自分がすべきことだけに没頭しようとひたすら努力した。



< 207 / 226 >

この作品をシェア

pagetop