Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!
あたしの頭の中では
担当になったことを挨拶して
早速、計測評価をさせて頂こうと考えていた
実際、一人目の患者さんである前島さんはその流れで問題なく進めることができた
その後の評価も問題なく進んでいる
二人目の長谷川さんも同じように進められるものだと思っていた
でも、患者さんはひとりひとり
病状も違う
そして
性格も異なる
価値観も
でも、どうしたらいいの?
あたしはレポートを書かなければならない
このまま評価が始めなけれれば
レポートなんて書けない
どうしたら・・・・
「・・・・・・」
助けを求めるように岡崎先生を見上げた。
でも、岡崎先生は何も言わなかった。
あたしの瞳の奥をじっと見つめたまま・・・
こんなにも真剣さが伝わってくる岡崎先生は初めてで
胸の奥がぐっと潰されそうな感覚も初めてで
試されている
それがひしひしと伝わってくる
これが実習
これが臨床なんだ
ここで逃げたら
作業療法士にはなれない
いや、作業療法士には向いていないんだ
『長谷川さん。』
「・・・・・」
『また明日、部屋にお伺いしますね。』
「それじゃ、俺、戻ります。」
あたしの心の動きを感じたのか
そうではないのか定かではない長谷川さんは
抑揚のない口調でそう言い残してあたしの目の前から消えた。
長谷川さんの中にあたしという人間が存在していない
そんな余韻だけを残して
どうしていいのかわからない明日が怖い
人と人の関係
それができていない今の状況
明日はどうなってしまうんだろう?
「真緒。」
いつもの、どこか間が抜けている、まおと呼ぶ声ではなく
引き締まった岡崎先生のあたしを呼ぶ声。
それがあたしの涙腺を刺激する。
「真緒。」
引き締まっている中にも何かを伝えたそうな岡崎先生の声。
「何も言わなくてもいい。」
あたしの心にすうっと浸み込むような岡崎先生の声。
「だから、今、泣け。」
胸の奥を潰されそうな痛みにまで届こうとするその声。
「学生の今だから許される。だから、泣け。」
そう言いながら、岡崎先生はまだ誰もいないADL(日常生活関連活動)室へあたしの手を引いて連れてきてくれた。