Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!

『あの、あたしも・・・』

「もしよろしければ神林先生も・・・うちに来て下さい。」


作業療法士資格をまだ保有していないあたしを
前島さんがご自宅に招き入れてくださる意向を示して下さったそのご厚意に
ありがたさ
そして
患者さんから受け入れてもらえた
そういう手応えを感じられ、嬉し涙がこぼれそうになった


『ありがとうございます。宜しくお願い致します。』

「ああ、こちらこそ宜しく・・・」


嬉し涙とはいえ、流石に患者さんの前で泣いてはいけないと
あたしは派手にニカッと笑いながら、前島さんに気が付かれないように指で目尻をポリポリと掻く仕草で涙を拾い上げた。



「評価課題、増えちゃったね。」

前島さんを病室まで送り届け、作業療法室へ戻る途中。
隣を歩く下柳先生はアイロンがピンとあてられた紺色のハンカチをあたしの手元に差し出しながら苦笑いしている。

どうやら嬉し涙を堪えていたのもバレたらしい
こうやって気を遣って下さる下柳先生の優しさによっても涙が増量しそうになるから

『涙・・じゃなくて・・・課題増量、どんど来いってとこです!前島さんのご自宅を汚さないように新しい靴下を履くようにします!』

とちょっと調子に乗った返答をした。


「そこまで考えているとは感心するね。僕も前島さんの自宅に訪問する際に靴下新調しようかな。」

さっきまでの苦笑ではなく、マスクをしていても明らかに笑顔とわかる下柳先生。

その笑顔も嬉しくて、“靴下新調、お揃いですね”なんて
乙女モードに入った時の絵里奈が口にしそうな言葉をうっかりと言いそうになった。



実習10日目午前

アメとムチの・・アメのほう

あたしの憧れの作業療法士の先生による
・・患者さんの不安を払拭し、未来を拓くような導き
・・嬉しい焼肉のお誘い
そして
脳外科レポート症例である患者さんからの、退院前訪問指導の同伴のお誘い

これらが実習が上手くいっていないあたしの背中を押してくれた
これから午後の長谷川さんのところへ向かうあたしの背中を・・・



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