Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!



「で?」

『・・・えっ?』

「だから、用事があるから来たんでしょ?」

『あ~、はい・・・じゃあ、早速・・・』


ベッドに腰かけ目をしかめながら首を傾げた長谷川さん。
完全に彼の視界に入った今、昨日彼が口にした実験台というワードが再び頭を過ぎる。


・・・いきなりゴニオメーター(関節の動く角度を測る道具)を彼の関節に当ててROM(関節可動域)検査を始めるのは、まさしく実験台と思われるからダメだろう

・・・腕や指に出ているしびれや感覚の状態を評価するために、絵筆で肌を擦ってみるのも、体に塗り絵をされるのか?と誤解されそうだからダメだろう

・・・右腕・右手指が動かない状態でトイレやお風呂で介助が必要かどうかを実際に見せてもらいたいとお願いするのも、ほぼ初対面みたいなあたし、しかも年齢がほぼ同じな女子の前でそれらをやってみせてくれるのは恥ずかしいだろうし・・・



今のあたし、評価検査、できることがない・・・
でも、長谷川さんもぶっきらぼうだけど、あたしと向き合ってくれようとしている
だから、まずできることからやってみよう




『あの・・・長谷川さんはメロンパン派ですか?それとも焼きそばパン派・・・ですか?』

「は?何、それ。」

『・・・どっちが・・・お好きですか?』

「・・・・・どっちも違う・・俺はおにぎり派。っていうか、ほんと、なんなの?」

『す、すみません!』


さすがに怒らせてしまったと思ったあたしは深く頭を下げてから、おそるおそる頭を上げながら上目遣いで彼を見た。

不意に視線が絡んだ瞬間、ぷいっと視線を外した彼。
完全に頭を上げると、彼の口角がピクピクしながら微妙に上がっている。
もしかして笑いを堪えている?


『怒って・・・いらっしゃらない・・・?』

「師匠もクセモノだけど、弟子もなかなかだと思ってさ。」

『弟子ではなく、下僕です。あたし。』


下僕?!とあたしの言った言葉を彼が反芻したことで、彼はとうとう堪えきれなかった笑いがふっと漏れた。


「ダメだ。このペースじゃ勉強進まないんじゃない?師匠にこてんぱんにやられる前に俺の検査とかやったほうがいい。」


長谷川さんはそう言いながら眉を下げ、三角巾で吊り下げている右腕を指さした。

あたしに対してもようやく長谷川さんの心の扉が開き始めたような手ごたえ。
できる、真緒なら・・のおまじないがききはじめている
そんな気がした。



【実習10日目午後】


師匠からの半分おふざけおまじない
どうやらこれは手の震えを抑える効果があるらしい

もしかしたら医療行為である薬の処方も、静脈注射もできないリハビリスタッフ独自の特効薬なのかもしれない

でも、リハビリスタッフの誰もがそんな特効薬、いや特効治療を使えるのかな・・・?

ん~わかんないや
やっぱり岡崎マジック、恐るべし!!!


< 49 / 226 >

この作品をシェア

pagetop