Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!
確かに絵里奈は呼吸器の勉強をしていた
肺や心臓、気道、気管支、胸郭の構造とその機能という基礎の基礎から・・
脳外科や手の外科症例のレポート作成をしているあたしからしてみれば
絵里奈はあたしの呼吸器知識の何十倍も知識をつけているぐらいに
実習前、大学のみで勉強していた時の、とりあえず単位取れればいいや~という絵里奈とは別人なぐらい、この実習が始まってから彼女も寮にこもって勉強していた
でも、あたしたちの手元にある教科書に書いてある呼吸器の作業療法についての記載は概論程度
具体的にこういう呼吸器症例、疾患にはこうしましょうという詳しい内容までは記載されていない
実際に、大学で、呼吸器作業療法の勉強は内部障害という領域の一部としてほんのちょっとしかやっていないし、その授業を受け持つ助教の先生も“実は呼吸器苦手”とこぼしていたぐらいだし
実習では、多くが脳外科疾患、神経内科疾患がレポート対象症例になりやすいって聞いていたし
そんな中で呼吸器症例のレポート
正直ちょっと酷だと思う
「でも、レポートは書けていない。」
『すみません。』
今にも泣きだしそうな声でそう謝った絵里奈。
いつも元気いっぱいな彼女のそんな姿に、こっちも泣きそうになる。
絵里奈の元カレの元カノの長野先生
もしかして、絵里奈に彼氏を取られた腹いせが今なの・・・?
ちょっと怒りがこみ上げたあたしはつい横目でぎっと長野先生を睨んでしまう。
目の前にいる岡崎先生も静観している状況。
あたし達第三者のそんな様子は気にしていない長野先生は勢いよく椅子から立ち上がりどこかへ行ってしまった。
『絵里奈~。』
「うっ、ごめん。あたし、自分が悪いんだから泣いちゃダメだって思っているのに・・・」
『そんな、いいよ。泣けるよね。わかるよ。』
絵里奈に駆け寄ったあたしは今にも泣き崩れそうな絵里奈をそっと抱きしめた。
いつもは絵里奈が泣きそうな人を抱きしめる立場なのに。
絵里奈の努力している姿を知っているあたしまで胸が痛くなる
どうしたら先生たちが求めているモノを得られるんだろう?
手の外科症例レポートが完全に遅れを取っているあたしも
今の絵里奈の状況がいつ自分のところにやってきてもおかしくない
そんな中
「戸塚さん。」
しばらく静観していた岡崎先生が絵里奈を呼んだ。
いつになく真剣な声で。
いつもの、どこか気怠くてふざけた彼ではない雰囲気に驚いたらしい絵里奈もすぐさま彼のほうを見た。
「長野は、中途半端なことが嫌いな人間だよ。他人に対しても、自分に対してもね。」
「えっ?」
「だからこのまま待つんだ。」
「・・・はい。」
慰めで言っているのではなく、断定しているような岡崎先生のその言葉。
それに頷いた絵里奈を見た彼は、あたしにレポートのフィードバックへ戻るように目で合図をした。
再び始まったあたしと岡崎先生のフィードバック時間。
その間も部屋の中ではふたりしかいないように思えるぐらい絵里奈が静かにそこに座っていて。
このまま、長野先生が戻って来なかったらどうしよう
もしそうなったら般若、どうしてくれるの・・
そんなネガティブな想いが頭を過ったその時だった。