Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!
その後、下柳先生とあたしは病院玄関へ向かった。
そして下柳先生は待って下さっていた前島さんとご家族に丁寧にご挨拶をした。
挨拶された前島さん一家も若干緊張していたみたいだけど、下柳先生の穏やかな笑顔につられるように温かい雰囲気に変わる。
そして下柳先生は左手足が上手く動かせない前島さんを無理なくスムーズに車の後部座席に腰かけられるようにうまく誘導介助して、車のドアをそっと閉めた。
「では、お車の後ろを追いかけさせて頂きます。」
下柳先生がそう言った後、前島さんが乗っている車の後ろに停めておいた病院の公用車に急いで乗り込んだ。
公用車に乗ってすぐに下柳先生は上着のポケットからサングラスを取り出してかけた。
助手席に乗っている今、サングラスをかけ、まっすぐ前を見る下柳先生の横顔はいつもの穏やかな雰囲気ではなく、運転に集中しているせいか大人の男の人に見える。
絵里奈がここにいたらいつも以上に下柳先生のことをイケメンだと大騒ぎするだろう。
ちなみに面食い絵里奈は、森村医師の恋のライバル産婦人科医師の日詠先生という人と松浦先生、そして今、隣にいる下柳先生を名古屋南桜総合病院の癒しイケメン三人衆と呼んでいる。
日詠先生という人については偶然、病院内のコンビニで見かけたらしく、その後の絵里奈は超国宝級イケメン見つけたっ!て叫んでいたっけ。
そんな彼女を横目に、今までのあたしは実習をこなすのに精一杯で、イケメンという視点で下柳先生をじっくり見ることはなかった。
絵里奈の言う通りカッコいいとサラリとは思ったことはあるけど、どちらかと言うと、あたしの中では憧れの作業療法士という視点のほうが強かった
でも、今、この車内という密室で、しかもいつもの癒し系な雰囲気とは異なる大人の男な下柳先生の横顔を目の当たりにすると、さすがにドキッとせずにはいられない
「今日はね、玄関の上がり框の段差解消の方法と・・・って神林さん?」
『・・・は、ハイ!!!ダンサ~?』
あたしが緊張しないように気を遣って話を振って下さった下柳先生がどうやらあたしの上の空な状態に気が付いたらしく、信号待ちのタイミングであたしの顔を覗き込んでくる
サングラス姿の大人の男の正面顔
その破壊力が半端なくて、自分でもわけのわからない事を言ってしまった。
「ダンサーじゃないよ。段差解消。面白いけど。緊張してる?」
『・・・・いえ、大丈夫・・・です。』
「じゃあ、良かった。で、今日は玄関の上がり框の段差解消と・・・トイレと居室間の動線の確認、浴槽移乗(浴槽の出入り動作)は最低限しようと思っているんだよね。いろいろ見てみたいとは思っているけど、時間との闘い。頑張らなきゃな・・・」
ふっと笑ってくれた下柳先生。
本当はまだ変な緊張をしているけれど、これ以上、下柳先生に気を遣わせてはいけないと思っているあたしは、はいっ、はいって言いながらオーバーリアクションレベルの頷きを繰り返す。
そうこうやっているうちに、前島さん宅に到着。
そこの玄関前では、50代くらいの女性が立っていた。
その人は、まずは先に到着した前島さんのご家族に何か話しかけた後、こっちへ駆け寄ってきた。