Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!
「下柳くん、お久しぶり~」
「あっ、お久しぶりです、山中さん。御無沙汰しております。今日は宜しくお願い致します。」
「あら~また、いい男っぷり上げたわね。はいはい、こちらこそ宜しくね!・・・で、そちらは例のリハビリ実習生さん?」
下柳先生が開けたドアの隙間からこっちを覗き込んだ山中さん。
品定めをするような視線が痛いけれどまずは挨拶しなきゃ
そう思ったあたしは
「さ・・・作業療法学生の神林です。よ、よろしくお願い致します。」
ちょっと噛みながらもなんとか挨拶し終えた。
「ケアマネジャー(介護支援専門員:介護保険サービスの利用計画の立案・提案等の役割を担う専門職)の山中です。かわいい実習生さんね。こちらこそ宜しく。」
ギロッと睨まれたような視線まで伝わってきたけれどあたしはニッコリと作り笑いで応対しその場を乗り切った。
その後、前島さんも下柳先生の誘導介助に支えられながらスムーズに車から降りて自宅内へ入った。
そして始まった退院前訪問指導。
下柳先生は前島さんの体調や動作に細心の注意を払いながら、山中さんからの問いかけにもテキパキを応えている。
「ここに手すりを付けて頂いたほうがいいですね。シャワーチェア(浴室用椅子)は肘掛け跳ね上げタイプを利用して、浴槽移乗の時にも腰かけたまま足を出し入れするようにしたほうがいいと思います。」
「浴槽測の壁にも手すりつけたほうがいい?」
「そうですね、でも、簡易手すり(取り外し可能な手すり)でも充分かもしれません。」
「あ~、簡易手すりね・・事務所からデモ用のもの持ってこれば良かった・・・」
残念そうな表情を浮かべた山中さん。
でも下柳先生はそんな彼女を構うことなく、持っていた大きなトートバックから簡易手すりを取り出して彼女の前に差し出した。
「さすが、下柳くん!!!! でも、前島さんの場合、どのあたりの箇所に取り付ければいいかな?」
「そうですね~・・・前島さん、今、ちょっとお風呂の出入りの動き、やってみます?お湯を張らずに服着たままでいいですから。」
聞き手には安心できる、迷いのないその声色で問いかけられた前島さんは“ちょっと緊張するけど、やってみるよ。”と前向きで。
病院とは全く異なる浴室環境。
ひとつ間違えば転倒、運悪ければケガに繋がるかもしれないこの状況でも
下柳先生の誘導や動きには無駄がなく、見ているこっちが油断しそうなぐらい安定していた。
「これならうちでも風呂に入れるな~。」
下柳先生が山中さんや前島さんご家族とともに福祉用具のパンフレットでシャワーチェアの種類の選定の話し合いをしている間に、前島さんが嬉しそうに呟いた。
『良かったですね。』
「神林さんもありがとう。土曜日にわざわざうちまで来てくれて・・」
『いえ、お礼を申し上げるのはこちらのほうです。本当に貴重な機会を与えて頂いてありがとうございます。今後、この経験を是非活かしていきたいと思います。』
「神林さんも・・・下柳先生みたいに・・・いいリハビリの先生になれるよ、きっと。」
『あ・・・ありがとうございます。頑張ります。』
病院では見られなかった前島さんの晴れ晴れした笑顔。
自宅生活に再び戻れるかもしれないという実感を得られたからだろう
こんな機会に立ち会えて本当に良かった
それに、いつも従事している病院ではない環境でも患者さんに安心感を与え、連携先のケアマネジャーにも信頼されている下柳先生の姿にもっと心惹かれた