Re:habilitation study ~鬼指導教官にやられっぱなし?!


『よろしければ担当療法士に声をかけてきますが、確か松浦先生が担当だったですよね?』

「ええ、そうです。松浦先」


彼女があたしの声かけに丁寧に応えて下さってる最中にバタバタと大きな足音がこっちまで聞こえてきて、彼女とあたしはついそちらを見た。



「レイナさん、お待たせしました!!!!」

「あっ、岡崎先生!先日は代行訓練ありがとうございました!」

「レイナさん、それが・・・」

「どうかしました?」



息を切らして駆け寄ってきた岡崎先生。
彼のその切迫感を笑顔で優しく受け止めようとする彼女。

見ているこっちがなんかドキドキする・・・



「今から松浦が訓練するはずだったのですが、彼、急遽、手術見学に呼ばれてしまって・・・ですので自分がレイナさんの訓練代行をさせてもらうことになりましたがよろしいでしょうか?」

「・・・そうなんですね、ありがたいです。よろしくお願い致します!」

「こちら・・こそ・・・です。」



彼女の、周りの人間を包み込むような優しい雰囲気。
その雰囲気に圧倒されてか、般若の返事はぎこちなさ満載。


「痛みはどうですか?」

「痛み止めが効いているみたいで大丈夫です。」

「そう良かった。じゃあ、指、伸ばしますので力抜いていて下さいね。」


でも、いざ訓練が始まると、引き締まった顔で彼女の指を動かす岡崎先生。
テンポ良く滑らかに動く彼の指先
彼女の顔色と指先を瞬時に見比べる、彼の鋭い視線
それに引っ張られるように集中している彼女

まるで目の前のふたりがピアノの連弾をしているようにぴったりと呼吸があっているハンドセラピィ

「いいですね。その調子です。」

「はい!」


訓練前の、ぎこちない彼の言動は別人のように思えるぐらい
彼らがいる場所は別世界であるような空気に包まれている
映画でも観ているような錯覚すら覚えてしまう

それに目を奪われてしまっていたあたしは、長谷川さんの病室へ行かなくてはならないのに足がその場所から動かせない

今まで、邪魔になってはいけないからと遠目でしか見ていなかった岡崎先生の訓練場面

いつも傍で見させてもらっている松浦先生もセラピィ手技が凄いと思っていたけれど、岡崎先生はその松浦先生よりも繊細な空気を持っているような気がする

その空気に惹きつけられて目が離せない

こんな凄い人が自分の実習指導者だったなんて
あたし、今まで何、やっていたんだろう?


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