パリの空の下、極上セレブ御曹司の貴方に今日も甘やかされてます
 額にのせたタオルに気づいて、薫が目をひらいたとき。
 そして、粥の皿を前に涙を流したとき。
 愛おしくて胸が震え、思いきり抱きしめてやりたかった。

 だが、私ができたのは頭を撫でてやること。
 それが精いっぱいだった。

 いまだに頭から離れないのだ。
 私のせいで、命を失なってしまった可哀想なロザリーの姿が。
 
 12年前……
 全身に包帯を巻かれて、病院のベッドに横たわっていた、ロザリーの痛ましい姿を目にしたとき。
 私の心の一部は壊れ、それ以来、本気で誰かを愛することができなくなった。

 もちろん薫に出会う前は、軽い気持ちでラブ・アフェアを楽しむ相手はいた。
 でも、それは割り切れる相手に限られた、ただの不実な戯れに過ぎなかった。

 薫はそんな相手とは違う。
 心から愛おしい、そう思える相手だ。

 でも、だからこそ……
 薫への気持ちに気づいた今でも、どうしても、一歩踏み出せないでいる。

 なにか、とても強い力が私の心にブレーキをかけている……
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