パリの空の下、極上セレブ御曹司の貴方に今日も甘やかされてます
 そのとき、ルイのお祖母さんがほんのわずか、身じろいだ。
「お祖母様」とルイがベッドのそばに歩み寄った。

 彼女はゆっくりと目を開け、自分を覗き込んでいるいくつかの顔を、焦点の合わない目でぼんやりと眺めた。

 そして、しばらくすると、消え入るような声で「薫はいますか?」とルイに尋ねた。

 ご家族の後ろで控えていたわたしは、自分の名が呼ばれたことに驚いて、ためらいながらもベッドのそばに近づいた。
 そして、痩せこけて骨のようになった彼女の手をそっと握った。
「薫はここにおります」
 彼女はわたしの顔を見て、弱々しく微笑んだ。
「今ね、母の夢を見ていたの。あなた、ねんねんころりよ……という唄をご存知?」

 ネンネン?
 日本語の発音とは違っていたせいで、はじめは何のことかわからなかった。
 あいまいな顔をしているわたしに、お祖母さんは「ベルスーズ(子守歌)ですよ、日本の」と言った。
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