パリの空の下、極上セレブ御曹司の貴方に今日も甘やかされてます
 ルイははじめ、いぶかし気な顔をした。
 それから下を向き、くっくっとおかしそうに声を詰まらせた。

「なんで笑うの?」
「いや、ちょっと待ってろよ」

 そう言うと、ルイは自室から仕事用のジャケットを手に戻ってきた。
 そして、胸ポケットからくしゃくしゃになったムエットを取りだした。

「これじゃないか。香りの正体は」
 わたしはルイからムエットをひったくって嗅いでみた。
 
 あっ、シプレ。

「あの日、新作の試作が届いてね。ポケットに入れっぱなしにしていたんだな」

「じゃ、じゃあ、前のときは?」
「前って?」

「ひと月ぐらい前。あれはぜったい『カボシャール』だった」

 ルイは思案顔。

「ソフィアは抱きつき魔だからな。私だけじゃなく、たぶんスタッフ全員、彼女の香水の残り香がするだろうな」
< 166 / 245 >

この作品をシェア

pagetop