パリの空の下、極上セレブ御曹司の貴方に今日も甘やかされてます
 頑張ってね、そう言って彼女はウインクをひとつすると、出口へ向かっていった。

 マダムの言葉に、ここひと月ほど、もやもやと頭のなかに立ち込めていた霧が一瞬で晴れた。

「Merci beaucoup(ありがとうございます)」
 わたしは振りかえって微笑むマダムに、深々と頭を下げた。


 そして、翌日。
 最後の仕上げを終え、香水はとうとう完成した。

 芍薬の花言葉から「フィデル」と名づけた。
 「誠実」を意味するフランス語だ。
 
 瓶に詰め、ラベルを張り、ほーっと安堵のため息をついた。

 ――自分の手で香水を作りたい。

 まさに、何年も思い描いてきた夢がひとつ、かなった瞬間。
 嬉しさがこみあげてくる。
 でも、ただスタート地点に立てたというだけ。
 まだ一歩も前に進んではいない。

 マダム・デュボアの温かいご指導に育まれたおかげでここまでこれた。

 そして……なんといってもルイがいなければ、わたしはここにいなかった。
 
 ――薫の夢をサポートしたい。

 そう言って、彼がわたしをパリに連れてきてくれなければ……
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