パリの空の下、極上セレブ御曹司の貴方に今日も甘やかされてます
(どうするの……ルイ?)

 心のなかで問いかけながら、ルイに視線を送る。
 でも彼のほうはまったく動じてなくて、落ち着き払って見える。
 その横顔がいつもに増して、頼もしい。
 
「『マルコ・ビアンキ』買収に、やはり名乗りを上げることにした」
 ジャンは話を続けた。

 『マルコ・ビアンキ』というのは、約三百年の歴史を誇るイタリア屈指のシューズ・ブランド。
 ただ最近、相続のいざこざから家族間で争いがおき、業績が悪化。
 倒産寸前だとまことしやかにささやかれていた。

「で、ビアンキには、ちょうどお前と釣り合う年頃の娘がいる」

「何を言っているんです。父上」
 ようやくルイが口を開いた。
 さも心外だという声で。

「私には薫という、れっきとした婚約者がいるのに」
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