パリの空の下、極上セレブ御曹司の貴方に今日も甘やかされてます
「じつはうちの主任パフューマーがアシスタントとともに、ごっそり中国の新興ブランドに引き抜かれてね。父もわたしも弱り果てていたところだったんだ」
「えっ?」

「卓越した嗅覚とセンスを持った一流の調香師の数は限られてるからね。急に代わりになる人間はいない。今期の新作は諦めるしかないかと、苦渋の決断を迫らていたんだ」

「じゃあ、わたしに白羽の矢が立ったのは……」
「ああ、救世主あらわるってとこだな」

 だがな、とルイは車に向かって歩きながら、付け加えた。

「マダムの力添えと会社の窮状の影響はもちろんあったが、なんといっても、薫の香水が父の心を動かしたんだぞ」

 ルイはポケットからリモコン・キーを取り出しながら続けた。

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