国宝級美男子のお世話は甘い危険がいっぱい〜私の心臓いくつあっても足りませんっ〜
運命の事故
 桜の花びらも綺麗に散り終わり桜の木には緑の葉が生い茂っている四月下旬。
 私、中条羽花(なかじょう うか)は肩まである長さの黒髪をなびかせながら風を切るように自転車をひたすら漕いでいた。



「お待たせ致しましたbring eats(ブリングイーツ)です!」



 私は普段より更にワントーン高い声をインターホンに向かって出した。それはお店のマニュアルの一つ、明るい声で挨拶する事。



「あぁ、羽花ちゃんいつもありがとうねぇ」



 ゆっくりと玄関ドアから出てきたおばあちゃんはお金を渡しながら私にお礼を言う。



「そんなっ、これが私の仕事なんですから。また宜しくお願いしますね」



 受け取ったお金をbring専用の財布にしまい、私はまた自転車に跨った。



(よし、あと三時間頑張るぞ〜っ!)



 bring eats 、ネットで注文された飲食店の料理をお客様の家まで運ぶ仕事だ。このバイトは割と時給がいい。父親は安月給で頑張ってきたものの去年リストラされてしまい、母はパート、下に四人の弟妹の七人家族の超絶貧乏な家に産まれた私にとって高給なバイトほど飛びつくものはない。


 高校生になってからは勉強はほどほどに、恋なんて程遠く、初恋でさえまだだ。私は毎日バイトに明け暮れていた。
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