国宝級美男子のお世話は甘い危険がいっぱい〜私の心臓いくつあっても足りませんっ〜
 夕方の五時。ついに楽しかった文化祭は終わりを迎えてしまった。


 次から次へと夢のような世界は勿体ないくらい、容赦なく剥がされていく。


 和らびcafeの看板も役目を終え、無惨な姿でゴミ捨て場に捨てられてしまった。


(なんだか切ないですね……)


 煌びやかな飾りも役目を終えたらゴミになる。そう思うとなんだか悲しくなり、暫くゴミ捨て場を眺めてしまった。


 もし、自分が勇気を出していなかったら、雷斗くんの怪我が治ったらこんなふうに「もう大丈夫だから」と言ってポイッと捨てられていたかもしれない。そう思うと怖くて、自分を抱きしめるかのように両肘を抱え込んだ。


「羽花」


 そんな不安を包み込んでくれるような優しい声で名前を呼ばれて振り返る。
 

「雷斗くん」


「なにぼーっとゴミ見つめてんの」


 スッと隣に立った雷斗くんの左手が流れるようにして私の右手を掬い上げた。


「もう終わっちゃったんだなぁって、少し寂しくなってしまいました」


「だな。次は体育祭もあるし、頑張らないとな?」


「う……私運動だけはどうも苦手なんですよね」


「んじゃ特訓するしかねぇな」


 え!? 絶対嫌だ! 雷斗くんの顔を見上げると意地悪な笑みでクスクス笑っている。本当に優しいのに意地悪なんです。

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