国宝級美男子のお世話は甘い危険がいっぱい〜私の心臓いくつあっても足りませんっ〜
 スゥっと深く息を呑み声を出すまいと狭まっている喉から勇気をだして声を絞り出す。


「あ、あのっ」


 勢い余って椅子から立ち上がってしまった……皆が私を見ている。しかもかなり驚いた表情で。


 ーー怖い。


 逃げ出したくなってきた。緊張で手が、指が細かく震える。心臓が口から飛び出そうなほどドクンドクンと動いている。


 震える手をグッと握りしめてどうにか止まれと念を込めた。


「な、中条さんどうかした?」


 委員長の明日香さんも私の予期せぬ行動に驚いている様子だ。でも、ここで、ここで逃げたらせっかく雷斗くんが作ってくれたこの勇気とチャンスを自らダメにしてしまう。


 もうたくさんの物を失った。小学生の時にイジメられて友達を失い、楽しい学校生活を失った。最近は静かで平穏だった学校生活さえも失った。よく考えらたもう失うものなんてないんじゃないかって、ふとそう思えたら急に心が風船のように軽くなった気がした。


< 94 / 225 >

この作品をシェア

pagetop