おとぎの檻




そして男は
「続けましょう」とまた唱え始める。




「佐野 朝佳に恋人などいらない」

「あ…ぁ…」




恋人…わたしに、恋人。



──『朝佳、好きだよ』



あぁ、いた気がする。


顔も名前も思い出せない。
けど、とてもわたしのことを大切にしてくれた。


甘い声が印象的で。


優しくて穏やかな──




「また言えないのですか?
…いけないお人ですね」



思考を、悪魔の声に遮られる。


そしてまた



───ジュ



刻印をされた。




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