おとぎの檻
「それではいきますよ」
「あ、ちょっと…」
「佐野 朝佳は、家族などいらない」
「え…」
家族という単語に、心臓がドクンと鳴った。
そういえば…わたしの家族は?
「朝佳さん、聞こえてますか。
ほら復唱してください。
佐野 朝佳は、家族などいらない」
男は言い聞かせるように唱えたけど。
「そんなの…言えません」
そう、そうだよ。
わたしにも家族がいる。
優しい両親にいたずらっこな弟。
思い出した。
みんなに会わないと。
ただいまって言わないと。
こんなところで眠っている暇なんかない。
「……そうですか」
そのとき、氷のような声が降ってきた。