初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
再会はウィーンで
初めてのひとり旅に不安がないといえば嘘になる。けれど、お見合いを勧める両親から逃げ出すには、いいタイミングだった。
午前一時すぎ。私(折原小夜子)を乗せた旅客機が、夜の闇に包まれた羽田空港を飛び立つ。行き先はオーストリアの首都であるウィーン。
ゴールデンウィークを利用してウィーンを訪れることになったのは、今から約半月前の四月中旬に、私宛に届いた一通のエアメールがきっかけだ。
差し出し人は、世界で活躍しているピアニストの結城奏吾。大手楽器メーカー『株式会社オリハラ楽器』の社長である私の父親と彼は、昔からの知り合いでプライベートでも交流がある。
そんな彼を、小さな頃から『結城のおじさま』と呼んで慕っていた。けれど、私が成長するにつれて習い事や塾などに忙しくなり、ここ十年は会っていない。
疎遠になってしまった結城のおじさまが、なにを送ってきたのだろう。
疑問に思いながらエアメールを開けると、羽田からウィーンまでの往復の航空券とホテルの宿泊券、クラシックコンサートのチケットが同封されていた。
「えっ? なに……これ」
結城のおじさまからの手紙やメモは、どこにも見あたらない。
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